見上げてごらん、夜空に輝くあの星を
「海の中を魚たちと一緒に泳いでいると錯覚するような道」をコンセプトに作られたという海の道は、真上だけでなく180度魚がいるという、子供にとっては夢のような光景で、なかなか楽しむことができた。

「恵理、もう大丈夫か?」

展示を半分以上見終え、一旦休憩というようにベンチに座った恵理の隣に俺は腰掛けた。

「ええ、もう大丈夫。心配しなくていいわ」

「そっか」

顔色を見てもほとんど完全に回復したようで、笑みさえも浮かばせていた。水族館は本体楽しむ場所だし、良い気分転換になって良かったのだろう。

「涼磨ー」


俺がベンチから腰をあげてノビをしていると、前から慎一が近づいてきた。なぜかクラゲに魅力を感じたようで、光に反射するクラゲたちに魅了されていた春乃もその後ろから来ていたのが見えた。

「あ、そういえば春休みが終わると新入生が入ってくるけど、どうするつもりなんだ?」

俺がさっきまで腰掛けていた場所に春乃が座ると、少し休憩というような感じでノビをした。同じことをしているな、俺はふと笑みをこぼす。せっかくだからと何か話す話題を探していて、偶然出て来たのがそんな言葉だった。

新入部員が入ってこないとまた廃部という同じ道を辿るのだから、今年少なくとも2人はなんとしても入って貰わなければならない。

「うん、ビラを配って勧誘するつもりだよ。せっかく復活したのにまた廃部にさせちゃ元も子もないから、しっかりやらないとね!」

その目に強い意志が宿っているのがわかった。あれだけ望んでやっと手に入れた天文部を放すわけにはいかないという決意だろう。


「それなんだけど、体験入部みたいな感じでプラネタリウムを新入生に見せてみないか?せっかくあるんだから、使わないと勿体無い。母さんにも許可を取ったから、その辺は気にしなくても大丈夫だ」


残り少ない春休みという期間でどこまでできるかわからないが、脳の片隅にしまっておいたそんな案を提示してみた。新入部員を集めるにはただ呼び込むだけじゃダメだと思ったから。

そんな俺の提案に、春乃を含む3人は目を見開いた。妙案だ、とでも言いたいのだろうか?

「それいいね!全く思いつかなかったよ!ぜひやろう。でも日程とかみんな大丈夫?」

「俺は「俺らはずっと暇だから大丈夫だぞ」

(重ねるなよ...まぁ事実なんだけどさ)

だからと言って、俺に重ねるように言われるのは少し癪に触る。

「私も大丈夫よ、絵もひと段落したところだし、手伝うわ」

「じゃあ決まりね!なるべく多くの日にちが必要になると思うけど、よろしくね!」


そして話が途切れたのを見計らって、俺は声をかけた。


「そういえば14時からイルカショーが始まるみたいだから、行かないか?昼飯がてらに見ても良いし」

恵理が体調を崩していたのもあって、昼飯を逃していたが、ショーを見ながら食べるのもアリだろうと提案する。ちょうど腹が減っていたし、ちょうど良いだろう。

「おう、そうしようぜ!」

頷く面々を傍らに、俺たちは順路へと向かった。











「思ったよりも全然すごいな」

たかが水族館のショーだと侮っていたが、これは子供のみならず大人でも全然楽しめる完成度だった。

イルカが本当に飼育員の言うことを聞いて、その通りに演技をするのだから、驚かないわけがない。

できたら餌を与える。言うだけなら簡単だが、並大抵の練習でできることではない。おそらくこのために多くの練習を積んだのだろう。宙にぶら下げるループをくぐるイルカは感動さえも覚えさせるほどだった。

春乃と慎一はもちろん、恵理なんて目が釘付けになっていた。中高生の多くがスマホでその様子を撮影する姿が目に入ったが、SNSにでもあげるのだろうか。

「思ったより全然楽しめたね!」

春乃もかなり面白かったと感じたようで、興奮が目に帯びている。

「あっちに触れ合いができる水槽があるみたいだぞ。行ってみないか?」

さっき地図で確認したふれあいスポットなる水槽もかなり楽しめるのではないかと思い、3人を誘ってみた。

「いいね!行こう!」

その声に賛同するように2人も頷いたので、通路を挟んですぐそこにあるその水槽へと向かう。


開放感がある池のような石造りの水槽(?)は、海への眺めもあり新鮮さを感じさせた。魚が中には多くいて、目を光らせて触れようとしている子供達がたくさんいた。俺たちも腕をまくって触れようとするが、逃げてしまうためなかなか触れることができなかった。それはとても小さな魚だったが、魚は大体人間の体温に弱いと聞いたことがあるため、少し躊躇してしまったのもあるかもしれない。触っていいと水族館側から公認されているのだから問題ないのだろうが。

中には足をつけてそこにある角質かなんかを取ってくれるというような魚もいたが、子供達が集まってはしゃいでいたので通り過ぎることにした。

ふとスマホに目を落とすと、時刻はすでに15時を回ったところで、展示もほとんどを見終えていた。

まだ乗っていないアトラクションなんかもあったが、恵理のことなど色々考えて見送ることになった。

恵理は終始申し訳なさそうな顔をしていたが、その顔が俺にとって見たことの無いような表情で、逆に俺が申し訳ないな、と思ってしまった。









「じゃあそろそろ出よっか」


お土産屋に寄って品を見ながら談笑しているうちに、店内の時計は16時を過ぎたところを指しており、日も徐々に傾き始めていていた。

春乃と恵理はお揃いでキーホルダーかなんかを購入したようで、2人は笑いながら話に励んでいた。

「そうだな。時間もかなりいい時間だし」

「思ったよりも全然楽しかったよな!」

慎一はずっと同じようなテンションで話しかけてくるので、正直なところ結構疲れてしまった。これも全然嫌ではないのだ。ずっと長い間友達と一日中遊び回るなんてこと自体してこなかったのだから、体が慣れていないのかもしれない。

「うん。また来ようね!あ、明日からのことも忘れないでね!」

春乃がついでに、というようにそう言うが、もとより俺が言い出したことだし、行かないつもりなど毛頭ない。

そして、今日のことを振り返ったり、明日からのことについてもっと深く掘り下げて内容を話し合ったりしながら俺たちは帰途に着くのであった。
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