見上げてごらん、夜空に輝くあの星を
「新入生に見せるためにプラネタリウム、と言うけど、もう投影機はあるんだからドームを作ればいいんだよな」

春休み、天文部部室。俺が提案したプラネタリウムで新入生を勧誘するという案について話し合っていた。

プラネタリウムなんて案は、そもそも投影機がなかったら考えることさえなかっただろうから、両親様様だ。

とはいえ、これを見せれば部員が集まる、なんてそんな都合のいい話はない。俺らが如何に良く見せられるかが勝負なのだ。そのために、出来るだけ、いや出来れば真っ暗な、外からの光が完全に遮断できるのならそれだけ良い光景を見せられる。プラネタリウムといえば作り物だという印象があるかもしれないが、これはこれで直接見るのとは全く違った魅力があるのだ。

だからこそ、投影用のドームはしっかりと製作しなければならない。

「そうだね。まずは外からの光が入らない、球状のドームを作らないと。上手くできれば本物のプラネタリウムとはいかなくても、かなり良いものになるはずだから、丁寧に作らないと。どんな素材で作るとかそういうことも決めなくちゃならないから、そう簡単にはいかないと思うけど」


「そうだな。素材のことだが、色々考えたけど、やっぱりダンボールが1番いいと思うんだ。コストもほとんどかからないから、俺たちみたいな高校生からしたら、これが最善だと思う」

やはり、ほかの素材となると片付けたりするのにも手間がかかるし、そもそもコストがかなりかかる可能性が高い。

「私も無難にダンボールでやるのが懸命だと思う。難しいことをやって失敗したら元も子もないし、ダンボールだって隙間を塞ぐことは十分可能だからね」

エアードームなんていう考えもあったが、これは簡単でも、空気で膨らませているのだから色々と厄介な問題が起きてくる。それに、ダンボールなら色々修正も効く。

手作りの投影機は、確かに形が所々歪な印象があるが、フィルムが精巧に作られており、使う分には問題ない。一度暗くした自室で見てみたが、全く問題なく見ることができた。

両親の世代となると、印刷技術などその他諸々が現代ほど発達していなかったのだから、これは本当に凄いものだと思う。立派な知的財産となり得るものだと思えるほどだ。

「じゃあダンボールでいくか。それでいいよな」


慎一を始め面々は頷いて同意する。


「あとは全体を支える骨組みかな。鋼を組み合わせてなんとかできるかな」

「難しいだろうが、なんとかできるんじゃないか?テープや接着剤で止めてみて心許ないようなら最悪溶接という方法もあるからな」

「そっか。じゃあ一回挑戦してみないとね。まずは買い出しかな。ダンボールとか養生テープとか全部集まりそうなのってどこかあるかな?」

「ホームセンターじゃない?」

プラネタリウム製作についての会話にほとんど入って来ていなかった琴吹が、的確な回答を挟む。

「そこだな。明日全員で行くか」

今から何も計画なしに行ってしまうと、サイズやなんやらで無駄な時間になってしまう可能性がある。今日部室におけるサイズを測ったりすれば、明日スムーズに事を運べる筈だ。

「今日はどういう種類のテープで隙間を塞ぐかとか、サイズはどのくらいがいいのかとかそういったことについていろいろ話し合うことにしよう」

そして話し合いが始まり、俺たちのプラネタリウム作りがスタートした。











「よし、これで骨組みはいいな」

結局プラネタリウムドームの骨組みは接着剤では完全にくっつくことはなかったため、やむなく溶接するという手段を取ることになった。

溶接といっても簡単なことではなく、技術科の先生に許可を得て屋上で溶接を行った。高1の間に技術の授業で溶接を習ったため、やり方はなんとなく覚えてはいたもののかなり手間取ってしまった。終わった時にはすでに4月に入った日を迎えていた。なんとしてもあと1週間で完成させなくてはいけない。

とはいえ俺と慎一は溶接で、春乃と恵理はダンボールの組み立てという係を分業して作業を進めていたので、あとはダンボールをくっつけて隙間がないようにテープで塞いだりすれば完成となる。しっかりとサイズを測って合うように計画をしたので幾分簡単に仕上げることができそうだ。面倒な作業であったが、何だかんだで最後に生きてきそうだから良かった。

「涼磨〜できたよー!」

そんな思案に耽っていた刹那、校舎から出てきた春乃と恵理の2人が駆け寄ってきた。

「ダンボールの方もあとはそれを組み込むだけだよ。見た感じそっちも終わったみたいだね!」

ちょうどいい。女子が作ってくれたのだから、綺麗にできているのだろう。俺たちのは所々溶接に失敗しかけた跡があったが、不器用なりになんとか仕上げることができたのだ。

当初は部室での展示を予定していたが、サイズ的に外で作ってしまうと出来上がった物を再び部室に入れることが物理的に不可能となってしまったので、屋上での展示となった。これについても許可を得て屋上を使わせてもらえることになった。

しかし、屋上という開放空間でできることとなったのだからと計画していた大きさよりさらに大きなサイズで骨組みを作ることができた。ダンボールもそれに合わせて大きく作ったため、中に大きな空間を作り出すことができそうだ。

完成したというダンボールのドームを骨組みと組み合わせると、見事にすっぽりと収まった。中に入って見るとまだ一部から光が差し込んでいたので、その隙間をテープで塞ぐよう、一つ一つ丁寧に仕上げていく。春乃が外からの見た目もこういうのに大事だと言うので、その辺のデコレーション(?)は全て女子陣に任せることにした。

「よし、完成!!!」

できたプラネタリウムは、4人で作ったとは思えない完成度であった。文化祭で作ったと言われても信じそうだ。これも投影機があったから出来たことなので、これを作ったOBに感謝しなければならない。


「あとは勧誘のためのビラを作らないとね!これも私達で作って見るね!」

それにしても春乃はすごい気迫だ。この製作にかなりの全力を注いでいるようにみえる。確かにこれはある意味1年で1番大切な時期とも取れるから当然とも言えるかもしれない。

ビラ作りも俺にはおそらく出来ないことだろう。どんなフレーズが新入生を惹きつけるのか。女子の字の方が良いだろうしな。


「おうよ。じゃあ俺たちに何か言ってくれれば手伝うから、なんでも言ってくれ」

慎一がそう言うと、春乃と恵理は頷いて部室へと向かった。
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