見上げてごらん、夜空に輝くあの星を
新しい年、新入生
春休みが終わる前日の4/6、俺たち天文部は一足先に勧誘のために朝早く学校に登校していた。
新一年生の入学式が10時から始まるというので、その生徒たちが登校してくる8時〜9時の間を狙ってビラ配りをするということになっていた。
若干フライングとも捉えられるが、そういったのが密集すると体育会系の部活に押されて霞んでしまうことも考えられる。入学してくる生徒は皆新たな生活に向けて心が弾んでいるだろう。中には憂鬱な者もいるだろうが、俺たちに新入生がどんな心持ちで挑んでいるかはわからない。
「あれ、もうこんな時間か」
ふと時計を見上げると、時間は7:30を回っているところだった。
「よし!じゃあ行くか!」
慎一が勢いよく席を立つ。春休みの間あれだけ力を入れて作業をしたのだから、今日にかける思いはひときわ大きいのだろう。かくいう俺も、せっかくプラネタリウムのドームまで製作したのだから、できれば多くの人に見てもらいたいと思っている。春乃は今回に一番力を注いでおり、今年入学する約245名の新入生の半分の120枚を刷るというような気合の入りようであった。
とりあえず、今日最低でも50枚渡したいところだ。今日渡せなければ明日にでも配ればいい。
校門に入るとある緩やかな坂の道脇には、桜の木々が生い茂り、素晴らしく綺麗な光景をまだまばらな新入生に見せていた。風が吹いて桜の花が飛ばされる。
「私たちが去年入学した時は早咲きで桜の花がもう散っちゃってたのに、今年はちょうど満開だね!」
確かに、俺が去年入学した愛知の高校は入学式の時もう散ってしまっていた。神奈川だと少し遅いのだろうが、去年はニュースでも異例の早咲きと言っていたから、相当だったのだろう。
8時を過ぎるか過ぎないかというころ、徐々に人が増え始めてきて、俺たちは本格的にビラ配りを始めた。
「天文部です!明日の放課後にプラネタリウムの上映会をやるので、ぜひ来てください!」
春乃が声かけを始めてから、俺たちもそれに続いて勧誘を始めた。
◇
勧誘を始めて30分、かなりの人数がビラを受け取ってくれた。正直、天文に興味がない人なら絶対に受け取らないと思っていた。個人的に、野球に興味が無い人は野球部の勧誘なんて受けないだろうし、そんなものだと思っていた。
だからこそ、新入生の集合時間である9時までに半分以上が受け取ってもらえたというのは驚きの事実だった。
「それにしても、ここまで好調にことが運ぶとは思っていなかったわ。渡したら8割以上が受け取ってくれたからな」
慎一も同じように思ったようで、予想していたよりも早くビラが消化されたのにかなり驚いたようだ。
今日のメインの目標であったビラ配りは大成功に終わり、明日のプラネタリウムの上映会の準備の最終調整を行うことにした。明日は始業式があるため、今日中になんとか仕上げないと時間的にタイトになってしまう。
新入生が楽しんで興味を持ってもらえると嬉しい。自分たちが作ったものでそうできたらこれ以上の喜びはないはずだ。
入学式が体育館で行われている中、俺たちはプラネタリウムの最終調整に入った。
◇
「あの...プラネタリウムってここで良いんですか?」
4月7日の始業式が終わった後、昼休憩を挟んで全学年が解散してプラネタリウムの最終確認を行なっていると、屋上のドアが開いて1年生らしき女子が1人入ってきた。
「あ、1年生かな?」
春乃が早足でその女の子に近づいて行き、会話を始めていた。いろいろ説明しているのだろうが、まとめてすれば良いのになどということは言わない。熱意に溢れているのだから水を差すことはしないのが懸命だ。
それを契機に、何人か1年生が来てくれて、予定時間の14時には10人も集まっていた。正直心の中で驚きを隠せずにいたのは秘密だ。男女比はちょうど1:1で、人数的にもプラネタリウムに入る数に収まっており、あぶれる事なく上映が行えそうだ。
もっとも、ドームに入れない程の生徒がやって来たら2部に分けるというのもあったが、ここまで多くの1年生が来るとは思っていなかったので、結局は理想の形に収まったと言える。
「では時間になったので、上映会を始めさせていただきます。私は天文部部長の坪倉春乃です。簡単に自己紹介と天文部について説明させていただきたいと思いますので、よろしくお願いします。私は幼い頃から星を見るのが好きで、今年に入ってようやくこの部活を再び立ち上げることができました。新入生の皆さん、今日は来てくれて本当にありがとうございます。そして、ぜひ楽しんでいってください」
自己紹介の後、俺から順に自己紹介をすることになった。
「えっと、天文部副部長の越知涼磨です。よろしくお願いします」
これ以上言うことは無いと、足を一歩下げて、慎一に自己紹介を促す。というか言おうとしていたことをいざ言おうとしたら頭から抜けてしまったという感じだ。
「阪田慎一と言います!今日は来てくれて本当にありがとう!本物の星空も綺麗だけど、プラネタリウムもまた違った良さがあるので、ぜひそれを感じて欲しいと思っています。今日はよろしく!」
続いて、恵理が緊張を顔に滲ませながらも一歩出て同じように自己紹介を始める。
「...琴吹恵理です。よろしく」
それだけ?!と思ったが、俺も人のことを言えないと口にチャックをつける。
自己紹介が終わると一斉に拍手が起き、少し落ち着きだしたところを見計らい、春乃が部についての説明を始めた。
「まず、天文部は星を見るのはもちろん、色々な活動を行なっています。不定期にパーティーを行なったり、皆で出かけたりもします」
視聴覚室から持ってきたプロジェクターに春乃が作って来たであろう写真のスライドショーを見せながら話を進めていく。
(こんなのも作ってたのかよ...ほんとすごいやる気だな)
思わず感心しつつも、流れていくスライドに目を向ける。
「また、5月下旬に体育祭があるのでクラブ対抗リレーにも出場するつもりです!男女それぞれ3人ずつなので、ぜひ入って欲しいと思ってます!あと、今年は7月7日の七夕が土曜日なので、1泊2日で星がよく見えるところに行って天体観測を行う予定を立てているので、よければ楽しみにしていてください!」
(え、そんなの始めて聞いたんだが......)
7月に一泊で天体観測というのは今初めて聞いたことだ。別に行っても一向に構わないのだが、やはりいきなりだと驚いてしまう。
横にいた慎一と恵理も同じように目を少し見開いて説明している春乃へと目を向けていた。
星がよく見える場所と言ったら、山奥か北海道辺りだろうか。おそらくまだ計画段階だろうから、これからゆくゆく決めていくのだろう。
天体観測は運にも左右されるが、その分見れた時の感動や達成感はとても大きい。だが、今日は街の光が邪魔をして星がほとんど見えないのが現状だ。明るい星が時々見えるくらいで、他の暗い星々を裸眼で見るのはかなり難しい。
「では、これくらいで説明は以上にして、早速プラネタリウムの上映会を始めていきたいと思います。皆さん1人ずつ中に入ってください」
入り口は人1人入るくらいの大きさだ。くぐらないと入れない大きさで、ちょっと太めの人が来ていたら危なかったかもしれない。これも、外の光が入ってくるリスクを減らすためのことだった。
この時間は1番日差しが強く、中に差し込んでしまう可能性を加味しての考えだった。
「それでは上映を開始します。ナレーターは私坪倉春乃が務めさせていただきます。よろしくお願いします!」
これまでの準備の成果を出す時がきた。裏方の俺だが、もうやることは無い。あとは春乃の引き込ませるようなナレーションをできるかが重要だ。
俺は期待を胸に自らも初めてののプラネタリウム鑑賞が幕を開けるのだった。
新一年生の入学式が10時から始まるというので、その生徒たちが登校してくる8時〜9時の間を狙ってビラ配りをするということになっていた。
若干フライングとも捉えられるが、そういったのが密集すると体育会系の部活に押されて霞んでしまうことも考えられる。入学してくる生徒は皆新たな生活に向けて心が弾んでいるだろう。中には憂鬱な者もいるだろうが、俺たちに新入生がどんな心持ちで挑んでいるかはわからない。
「あれ、もうこんな時間か」
ふと時計を見上げると、時間は7:30を回っているところだった。
「よし!じゃあ行くか!」
慎一が勢いよく席を立つ。春休みの間あれだけ力を入れて作業をしたのだから、今日にかける思いはひときわ大きいのだろう。かくいう俺も、せっかくプラネタリウムのドームまで製作したのだから、できれば多くの人に見てもらいたいと思っている。春乃は今回に一番力を注いでおり、今年入学する約245名の新入生の半分の120枚を刷るというような気合の入りようであった。
とりあえず、今日最低でも50枚渡したいところだ。今日渡せなければ明日にでも配ればいい。
校門に入るとある緩やかな坂の道脇には、桜の木々が生い茂り、素晴らしく綺麗な光景をまだまばらな新入生に見せていた。風が吹いて桜の花が飛ばされる。
「私たちが去年入学した時は早咲きで桜の花がもう散っちゃってたのに、今年はちょうど満開だね!」
確かに、俺が去年入学した愛知の高校は入学式の時もう散ってしまっていた。神奈川だと少し遅いのだろうが、去年はニュースでも異例の早咲きと言っていたから、相当だったのだろう。
8時を過ぎるか過ぎないかというころ、徐々に人が増え始めてきて、俺たちは本格的にビラ配りを始めた。
「天文部です!明日の放課後にプラネタリウムの上映会をやるので、ぜひ来てください!」
春乃が声かけを始めてから、俺たちもそれに続いて勧誘を始めた。
◇
勧誘を始めて30分、かなりの人数がビラを受け取ってくれた。正直、天文に興味がない人なら絶対に受け取らないと思っていた。個人的に、野球に興味が無い人は野球部の勧誘なんて受けないだろうし、そんなものだと思っていた。
だからこそ、新入生の集合時間である9時までに半分以上が受け取ってもらえたというのは驚きの事実だった。
「それにしても、ここまで好調にことが運ぶとは思っていなかったわ。渡したら8割以上が受け取ってくれたからな」
慎一も同じように思ったようで、予想していたよりも早くビラが消化されたのにかなり驚いたようだ。
今日のメインの目標であったビラ配りは大成功に終わり、明日のプラネタリウムの上映会の準備の最終調整を行うことにした。明日は始業式があるため、今日中になんとか仕上げないと時間的にタイトになってしまう。
新入生が楽しんで興味を持ってもらえると嬉しい。自分たちが作ったものでそうできたらこれ以上の喜びはないはずだ。
入学式が体育館で行われている中、俺たちはプラネタリウムの最終調整に入った。
◇
「あの...プラネタリウムってここで良いんですか?」
4月7日の始業式が終わった後、昼休憩を挟んで全学年が解散してプラネタリウムの最終確認を行なっていると、屋上のドアが開いて1年生らしき女子が1人入ってきた。
「あ、1年生かな?」
春乃が早足でその女の子に近づいて行き、会話を始めていた。いろいろ説明しているのだろうが、まとめてすれば良いのになどということは言わない。熱意に溢れているのだから水を差すことはしないのが懸命だ。
それを契機に、何人か1年生が来てくれて、予定時間の14時には10人も集まっていた。正直心の中で驚きを隠せずにいたのは秘密だ。男女比はちょうど1:1で、人数的にもプラネタリウムに入る数に収まっており、あぶれる事なく上映が行えそうだ。
もっとも、ドームに入れない程の生徒がやって来たら2部に分けるというのもあったが、ここまで多くの1年生が来るとは思っていなかったので、結局は理想の形に収まったと言える。
「では時間になったので、上映会を始めさせていただきます。私は天文部部長の坪倉春乃です。簡単に自己紹介と天文部について説明させていただきたいと思いますので、よろしくお願いします。私は幼い頃から星を見るのが好きで、今年に入ってようやくこの部活を再び立ち上げることができました。新入生の皆さん、今日は来てくれて本当にありがとうございます。そして、ぜひ楽しんでいってください」
自己紹介の後、俺から順に自己紹介をすることになった。
「えっと、天文部副部長の越知涼磨です。よろしくお願いします」
これ以上言うことは無いと、足を一歩下げて、慎一に自己紹介を促す。というか言おうとしていたことをいざ言おうとしたら頭から抜けてしまったという感じだ。
「阪田慎一と言います!今日は来てくれて本当にありがとう!本物の星空も綺麗だけど、プラネタリウムもまた違った良さがあるので、ぜひそれを感じて欲しいと思っています。今日はよろしく!」
続いて、恵理が緊張を顔に滲ませながらも一歩出て同じように自己紹介を始める。
「...琴吹恵理です。よろしく」
それだけ?!と思ったが、俺も人のことを言えないと口にチャックをつける。
自己紹介が終わると一斉に拍手が起き、少し落ち着きだしたところを見計らい、春乃が部についての説明を始めた。
「まず、天文部は星を見るのはもちろん、色々な活動を行なっています。不定期にパーティーを行なったり、皆で出かけたりもします」
視聴覚室から持ってきたプロジェクターに春乃が作って来たであろう写真のスライドショーを見せながら話を進めていく。
(こんなのも作ってたのかよ...ほんとすごいやる気だな)
思わず感心しつつも、流れていくスライドに目を向ける。
「また、5月下旬に体育祭があるのでクラブ対抗リレーにも出場するつもりです!男女それぞれ3人ずつなので、ぜひ入って欲しいと思ってます!あと、今年は7月7日の七夕が土曜日なので、1泊2日で星がよく見えるところに行って天体観測を行う予定を立てているので、よければ楽しみにしていてください!」
(え、そんなの始めて聞いたんだが......)
7月に一泊で天体観測というのは今初めて聞いたことだ。別に行っても一向に構わないのだが、やはりいきなりだと驚いてしまう。
横にいた慎一と恵理も同じように目を少し見開いて説明している春乃へと目を向けていた。
星がよく見える場所と言ったら、山奥か北海道辺りだろうか。おそらくまだ計画段階だろうから、これからゆくゆく決めていくのだろう。
天体観測は運にも左右されるが、その分見れた時の感動や達成感はとても大きい。だが、今日は街の光が邪魔をして星がほとんど見えないのが現状だ。明るい星が時々見えるくらいで、他の暗い星々を裸眼で見るのはかなり難しい。
「では、これくらいで説明は以上にして、早速プラネタリウムの上映会を始めていきたいと思います。皆さん1人ずつ中に入ってください」
入り口は人1人入るくらいの大きさだ。くぐらないと入れない大きさで、ちょっと太めの人が来ていたら危なかったかもしれない。これも、外の光が入ってくるリスクを減らすためのことだった。
この時間は1番日差しが強く、中に差し込んでしまう可能性を加味しての考えだった。
「それでは上映を開始します。ナレーターは私坪倉春乃が務めさせていただきます。よろしくお願いします!」
これまでの準備の成果を出す時がきた。裏方の俺だが、もうやることは無い。あとは春乃の引き込ませるようなナレーションをできるかが重要だ。
俺は期待を胸に自らも初めてののプラネタリウム鑑賞が幕を開けるのだった。