見上げてごらん、夜空に輝くあの星を
部活体験期間である4/13が終わった翌日。放課後いつもの部室の扉が開いた。
「あの...すみません。天文部の部室ってここで合っていますか?」
ドアが開いた隙間から顔を出したのは、少し小柄な女の子だった。どこかで見覚えがある、と思ったが、おそらくプラネタリウム上映会で一番最初に来てくれた女の子だろう。
「そうだけど、入部希望の方ですか?」
この時期に部員でもない生徒が部室を訪ねるなど、入部希望者しかありえない。そう思ったのか、春乃は率直に尋ねた。
「は、はい!1年の日向瀬奈って言います!先日のプラネタリウムを見て、入りたいと思って...」
日向さんがその言葉を紡いだ瞬間、春乃はすぐさま駆け寄っていった。
「ほんとに?!天文部に入ってくれるの?」
信じられないといった表情だが、その中からは喜びが滲み出ていた。
それはそうで、春乃があれほど待ち望んでいた新入部員の第1号だ。嬉しくないはずがない。正直、入念に準備を重ねた成果が誰もこないという結果で終わってしまっていたとしたら、悔やんでも悔やみきれないから、ひとまず安心だ。
「春乃、とりあえず中に入れてやれよ」
春乃の勢いに若干気圧されていた日向さんはドアを開けて入ってきていたのに、いつのまにか部室から出かけていた。
「あっ、ごめんね!新入部員が入ってくれるのをずっと待ち望んでいたから、嬉しくて思わずテンションが上がっちゃって...」
頰をかきながら少し恥ずかしそうにしながらも、冷静さを取り戻したようで、用意していた入部届けを持ってきて日向さんに手渡した。
「はい、これが入部届け!ここで書いてもらってもいいけど、ご両親のサインが必要だから、持って帰ってゆっくり書いてから後日みでも持ってきてくれれば大丈夫だけど、どうする?」
「あ、じゃあまた明日持ってきます!あともう1人入部希望の子がいるんですけど...」
手元の紙をバッグに仕舞いながら、願ってもない一言が飛び出した。その言葉に呼応するかのように、全開のドアから人影が入ってきた。
「どうも、平田大志って言います!瀬名とは幼馴染です!もし良ければ天文部に入れて欲しいなと思ってきたんですけど、お時間大丈夫ですか?」
その生徒は、爽やかな好青年な雰囲気を醸し出していた。言葉に全く嫌味を感じない、気持ちのいい挨拶だ。
幼馴染、という響きに軽く頷きながらも、当然というように答える。
「新入部員を募集してる期間だから、忙しいとかいうことはないんだ。問題ないから心配しないでくれ」
「そうなんですね!じゃあ早速なんですけど、これからよろしくお願いします!」
平田くんは微笑みながら、大きくお辞儀をした。
「こちらこそよろしくな!」
慎一が真っ先にそう返したのに続いていき、天文部は2人の新入部員をメンバーに加えたのだった。
◇
「5月に行われる体育祭のことなんだけど、クラブ対抗のリレーは出ても大丈夫だよね?どっか怪我してる人とかいたら無理にとは言わないんだけど...」
新入生が加わり学校生活にも慣れてきた頃、春乃が5月の中旬に行われる体育祭の話題を繰り出した。
「大丈夫かな?じゃあエントリーするね!」
少しの沈黙と顔を見合うのを挟んだが、露骨に嫌だと申し出る者どころか、皆気合いの入った表情をしていた。そもそもどうしても出たくないなんていうやつはいないだろうし、武道大会の時以上に目立つ事なんてないだろう。もとより文化系のクラブに勝ち目などない。
「あ、そういえばみんなはクラスの競技って何に出るの?」
春乃が聞いたその質問に返ってきた答えは思いの外重なる競技が多かった。例えば棒倒しだが、俺と慎一はクラス対抗だからもちろん一緒の競技だ。そもそも、こういったイベントに積極的に参加したいとは全く思わないから、必ず出なくてはいけない競技以外は立候補はしていない。つまりは強制出場の徒競走と棒倒しだけなのだ。真ん中に応援合戦か何かを挟むが、あんなの立って入ればいいだけだ。
正直なところ、クラブ対抗リレーなどまっぴら御免だが、俺がいないと出場すら出来ないのだから、出たくないという理由だけで反対するわけにもいかない。
体育祭は5月15日に行われる、3学年対抗の文化祭に並ぶ学内最大イベントの1つだ。
遅くなったが、今年は2年生は俺と春乃と恵理が2-3で、慎一が2-6というクラス替えになった。1人になった慎一は密かに泣きそうになっていたが、こればかりは仕方がない。
しかし、幸運なのかどうかはわからないが、3組と6組は同じ“青組”だそうで、1学年2クラスずつの体育祭は共闘という形になっているのだ。
1年生2人は小中と全部同じクラスで、今年も腐れ縁という言葉に相応しく双方1年5組になったそうだ。1-5は黄組らしく、敵同士となるようだ。
去年の体育祭であまりいい印象がなかった俺にとって、ただただ退屈なイメージが染みついているが、部内の高揚感に水を差すわけにはいかない。俺は静かに事の成り行きを見守ることにしたのだった。
「あの...すみません。天文部の部室ってここで合っていますか?」
ドアが開いた隙間から顔を出したのは、少し小柄な女の子だった。どこかで見覚えがある、と思ったが、おそらくプラネタリウム上映会で一番最初に来てくれた女の子だろう。
「そうだけど、入部希望の方ですか?」
この時期に部員でもない生徒が部室を訪ねるなど、入部希望者しかありえない。そう思ったのか、春乃は率直に尋ねた。
「は、はい!1年の日向瀬奈って言います!先日のプラネタリウムを見て、入りたいと思って...」
日向さんがその言葉を紡いだ瞬間、春乃はすぐさま駆け寄っていった。
「ほんとに?!天文部に入ってくれるの?」
信じられないといった表情だが、その中からは喜びが滲み出ていた。
それはそうで、春乃があれほど待ち望んでいた新入部員の第1号だ。嬉しくないはずがない。正直、入念に準備を重ねた成果が誰もこないという結果で終わってしまっていたとしたら、悔やんでも悔やみきれないから、ひとまず安心だ。
「春乃、とりあえず中に入れてやれよ」
春乃の勢いに若干気圧されていた日向さんはドアを開けて入ってきていたのに、いつのまにか部室から出かけていた。
「あっ、ごめんね!新入部員が入ってくれるのをずっと待ち望んでいたから、嬉しくて思わずテンションが上がっちゃって...」
頰をかきながら少し恥ずかしそうにしながらも、冷静さを取り戻したようで、用意していた入部届けを持ってきて日向さんに手渡した。
「はい、これが入部届け!ここで書いてもらってもいいけど、ご両親のサインが必要だから、持って帰ってゆっくり書いてから後日みでも持ってきてくれれば大丈夫だけど、どうする?」
「あ、じゃあまた明日持ってきます!あともう1人入部希望の子がいるんですけど...」
手元の紙をバッグに仕舞いながら、願ってもない一言が飛び出した。その言葉に呼応するかのように、全開のドアから人影が入ってきた。
「どうも、平田大志って言います!瀬名とは幼馴染です!もし良ければ天文部に入れて欲しいなと思ってきたんですけど、お時間大丈夫ですか?」
その生徒は、爽やかな好青年な雰囲気を醸し出していた。言葉に全く嫌味を感じない、気持ちのいい挨拶だ。
幼馴染、という響きに軽く頷きながらも、当然というように答える。
「新入部員を募集してる期間だから、忙しいとかいうことはないんだ。問題ないから心配しないでくれ」
「そうなんですね!じゃあ早速なんですけど、これからよろしくお願いします!」
平田くんは微笑みながら、大きくお辞儀をした。
「こちらこそよろしくな!」
慎一が真っ先にそう返したのに続いていき、天文部は2人の新入部員をメンバーに加えたのだった。
◇
「5月に行われる体育祭のことなんだけど、クラブ対抗のリレーは出ても大丈夫だよね?どっか怪我してる人とかいたら無理にとは言わないんだけど...」
新入生が加わり学校生活にも慣れてきた頃、春乃が5月の中旬に行われる体育祭の話題を繰り出した。
「大丈夫かな?じゃあエントリーするね!」
少しの沈黙と顔を見合うのを挟んだが、露骨に嫌だと申し出る者どころか、皆気合いの入った表情をしていた。そもそもどうしても出たくないなんていうやつはいないだろうし、武道大会の時以上に目立つ事なんてないだろう。もとより文化系のクラブに勝ち目などない。
「あ、そういえばみんなはクラスの競技って何に出るの?」
春乃が聞いたその質問に返ってきた答えは思いの外重なる競技が多かった。例えば棒倒しだが、俺と慎一はクラス対抗だからもちろん一緒の競技だ。そもそも、こういったイベントに積極的に参加したいとは全く思わないから、必ず出なくてはいけない競技以外は立候補はしていない。つまりは強制出場の徒競走と棒倒しだけなのだ。真ん中に応援合戦か何かを挟むが、あんなの立って入ればいいだけだ。
正直なところ、クラブ対抗リレーなどまっぴら御免だが、俺がいないと出場すら出来ないのだから、出たくないという理由だけで反対するわけにもいかない。
体育祭は5月15日に行われる、3学年対抗の文化祭に並ぶ学内最大イベントの1つだ。
遅くなったが、今年は2年生は俺と春乃と恵理が2-3で、慎一が2-6というクラス替えになった。1人になった慎一は密かに泣きそうになっていたが、こればかりは仕方がない。
しかし、幸運なのかどうかはわからないが、3組と6組は同じ“青組”だそうで、1学年2クラスずつの体育祭は共闘という形になっているのだ。
1年生2人は小中と全部同じクラスで、今年も腐れ縁という言葉に相応しく双方1年5組になったそうだ。1-5は黄組らしく、敵同士となるようだ。
去年の体育祭であまりいい印象がなかった俺にとって、ただただ退屈なイメージが染みついているが、部内の高揚感に水を差すわけにはいかない。俺は静かに事の成り行きを見守ることにしたのだった。