見上げてごらん、夜空に輝くあの星を
体育祭
私が越知涼磨という男の子に対して好意を抱き始めたのはいつからだっただろうか。
私と涼磨は確かに幼馴染で、毎日のように遊ぶ仲だったし、友達としての好意は人一倍持っていたのは覚えている。しかし、それが“男の子としての好意へと変わったのがいつだというのは全くといって覚えがない。
ある日、涼磨が忘れたノートを届けるために早足で涼磨を追いかけたことがあった。先に帰る、と言って帰ってしまったから、焦ってノートを忘れたのだろうか。涼磨らしい。当時はそう思ったものだった。
しかし、早足で涼磨の家路を辿って行く途中、道脇の公園に多数の人影が見えた。子どもが遊んでいるのだろう、と最初は感じていたが、明らかに雰囲気が異なると肌で感じた。直感的に入り口近くの電柱に身を隠しつつ中を覗くと、そこには涼磨の姿があった。
そこには同じくらいの年齢の男の子がいて、涼磨を取り囲んでいた。
話の内容はなぜか私についての事らしく、あの男の子は私と仲良くしたいから、仲良くしている涼磨を妬んで脅してるようであった。
しかし話している中で、涼磨の口から予想もしていなかった言葉が出てきたのだ。
「ふん...全くくだらない話だな。坪倉さんと話したいのなら自分から話に行けばいい話だろうに。坪倉さんは俺にとって大切な友達なんだ。仲良くしているのはそれだけの理由だ。付き合いにそれ以上もそれ以下の理由も必要ないだろう?」
”大切な友達“。この言葉がどれほど私の心に響いたことか。面と向かって言うことは絶対にない、そして涼磨らしくない言葉。だからこそ、それは余計に心に突き刺さったのだ。
そんな言葉が妙に囲んでいる男子の中のリーダー格の子への煽りになったようで、指示とともに集団で襲いかかろうという体勢を取っていた。
私は止めなくちゃ!と思いながらも、足が震えて動かなかった。動けといくら念じても足が地についたまま動かない。何もできない自分の情けなさを身に受けながらも、目を離すわけにはいかないと涼磨を見つめる。
そしてリーダー格の男子が襲いかかったのを契機に、周りの取り巻きも同じように襲いかかった。しかし、その時間はあっという間であった。目にも止まらぬ速さで攻撃を避けてカウンターを入れる。圧倒的不利だと見ざるを得ない状況をたった数十秒で打破したのだ。
春乃は、自分の情けなさを痛感するとともに、その心に新たな感情が芽生えたのを感じた。
涼磨への見方が変わったのはこの時なのだろうか。当時の自分には全くそんな感情を持っているとは気づいていなかった。その出来事から数日が経ち、親に急な引っ越しを告げられて別れも言えずに離れ離れになってしまった。それが積もったその気持ちを気づかせたのだろうか。
だからこそ、再会を果たせたことが誰よりも、なによりも春乃はそれが嬉しかったのだった。
◇
体育祭当日、空は曇で覆われており、若干の肌寒さを感じさせていた。前日の天気予報では雨の可能性がある、と言っていたから少しばかり心配だった。もちろん俺だって普通に授業を受けるよりもこういったイベントの方が楽しい。それに、今回は強制的に全員が出場させられる競技しかエントリーしていないため、かなり楽なのだ。ほとんどは競技が消化するのを見届けるだけ。
競技はつつがなく進行し、俺の出る競技も終わって幾分気楽になった。徒競走は1位にならないくらいの速度で走り、咎められないちょうどいい結果で終えた。
棒倒しはなぜあんなに危ないのに競技として存在するのだろうかと思うくらい激しい戦いだった。棒を倒しにきた生徒が棒を抑える選手を殴ったり蹴ったりするのも見受けられるくらいで、かなり引いてしまった。自分の競技は全部午前で、午後は最後のクラブ対抗リレーだけになった。
昼食タイムもいつものように済ませつつ、午後の集合がかかった。最初は応援合戦から始まるようで、生徒気合の入った顔を見るに、1番大きい点数を稼げて差をつけられる競技なのだろう。
午前の競技が終わった時点で1位赤組2位黄組3位青組で、俺たちは最下位を定位置としつつあった。だからこそクラスの皆はやる気に漲っており、これで一位を取れば逆転できるかもしれないという可能性を信じているようだった。
応援合戦が始まると、午後一発目にもかかわらず大きな盛り上がりを見せていた。こういった競技もなかなか楽しめるもので、見ている分には面白かった。
俺たちの応援合戦が終わって少し経つと、応援合戦の順位が発表された。
「応援合戦の順位を発表します。3位、赤組。2位、黄組。1位は青組です!」
生徒のやる気がそのまま結果に反映されたようで、見事に1位を取って、総合順位でも僅差ながら1位に躍り出た。
そこからも学年、クラスごとの競技が続き、体育祭もラストスパートに入った。
「プログラム15番、色別対抗リレーです。選手のみなさん、入場してください。また、クラブ対抗リレーに出場する生徒は入場口へ集まってください」
放送部の放送が入り、クラブ対抗リレーに出る俺は入場口へと向かう。正直気は向かないが、春乃にとっては売名のチャンスだろうし、出ないわけにはいかない。
クラブ対抗リレーのメンバーには文化系の部活の生徒も多く見られた。中には白衣を着て走るつもりなのか、理科学部の生徒もいて、思わず吹きそうになってしまった。
「プログラム20番、クラブ対抗リレーに出場する選手は準備をしてください」
そうこうしているうちに色別対抗リレーが終わったようで、俺たちにも集合の合図がかかった。ふと得点板を見たものの、もう得点は隠しているようで、何も入っていなかった。最後の盛り上がりには不可欠なのかもしれない。
入場口の先生から合図が出て、それに沿って入場口から中に入る。中はやはりなれない空間で、緊張感を肌で感じ取れた。
審判の先生に促されスタートラインについたのは、トップバッターのだった。このリレーは男女が交互に走る方式で、天文部は日向さん→平田くん→恵理→慎一→春乃→俺の順で、アンカーは2週走るのだが、俺がアンカーになったのは副部長だからという理由らしい。なんとか最下位は避けたいところだ。
位置についてのコールがかかり、ピストルの音とともにスタートした。
始まりから、運動部と文化部の差はつくばかりで、文化部の俺たちには厳しい戦いだった。恵理が最終コーナーに差し掛かったところですでに半周差がついていた。 しかし、慎一が怒涛の勢いを見せる。女子がいるからだろうか、その顔は気合いに満ち溢れていた。
慎一は中学の時バスケをやっていたと言っていたが、思ったより全然足が速かった。運動部に遜色ないどころか超える走りを見せ、差を1/4週にまで縮めた。春乃にバトンが渡り、走り始めると必死に食らいつく。
「涼磨、結構いい線行ってるんじゃないか?こうなったらお前、あの運動部の奴らに目にもの見せてやれ」
つまり抜かして一位になれと言うのだろうか。俺はといえば走るどころか自分がそれほど速いのか試したことがない。そんな機会もなかったし、徒競走の時も一位の背後について行っただけだ。
春乃の姿が徐々に大きくなる中、俺の横で運動部の選手がバトンを手渡しながら追い抜いていく。
そのすぐ後、春乃のバトンが俺の手に渡った。
(とりあえず1位を目指して走るか...)
武道大会以上に目立つことなどないだろうとタカをくくり、ばとんを手に取った俺は、ハイスロットルで前を走る運動部の背中を追いかけた。
1周目の最初から飛ばしていった俺は、自分が思ったよりも速い速度で足が進み、運動部の最後尾にいるバレー部の選手を射程圏内に捉えた。
やがて、1周目を走り終えるとバレー部と並び、1位を走る陸上部の背中も見えてきた。
(あれを抜かせたらいいんだろうが、流石に無理だ)
「あいつ速くね?文化部だろ?」
俺のことを知らない生徒が、天文部の部員ということを知って驚いていた。そして、クラスのやつも視界に入り、大声をあげていた。混ざって何を行っているのか聞き取れはしなかったが、応援の意だとはなんとなく察した。
それなりの順位を目標にしていたはずの俺も、いつのまにか1位を目指していた。しかし、その後ろを走るサッカー部なら抜かせるかもしれないと思い、さらにギアを上げた。ぐんぐんとその背中が大きくなってくる。とは言えども相手は毎日走らされているであろうサッカー部。その足腰の粘りは尋常じゃなかった。最後のカーブに入ると、水を得た魚のように速度を上げて、そのままゴールしてしまった。
俺はその後を追うようにラインを超え、陸上部、サッカー部に次ぐ3位だった。天文部としては大健闘だろう。4位以降の運動部は俺らに顔向けできないかもしれない。天文部に負けてしまったとなると監督に怒られるなんてことも予想できる。
何はともあれ、これなら文句は言われないだろう、そう思って待機の列に戻ると、後ろから大きな衝撃を受けた。
「すげえじゃんか!運動部を抜かすなんて!」
春乃や一年生の2人も同じように賛美の声を送ってくれたので、言われた側として悪い気はしない。恵理はいつも通りだったが。
「それでは、閉会式、ならびに結果発表に移りますので、全クラスは整列してください!」
朝並んだのと同じ隊形になるよう指示されたので、俺たちは駆け足で出来かけの列に入って、始まるのを待った。
「まずは結果発表から始めます。得点板係は、1桁目から3桁目、2桁目の順番にボードに数字を並べてください」
指示通り、得点板に数字が並んで行く。赤組は5、青組は0、黄組は9だった。そして、3桁目は全組4で、あとは2桁目を残すのみとなった。会場は今日1番の緊張感と沈黙が漂っている。
「最後は一斉にお願いします!」
二桁目の得点板は全組同時に入れられた。目に入ってきたのは赤が4、青が5、黄が2だった。
会場全体は数秒の沈黙を経て、大きな歓声が響いた。そして、この日は俺にとって体育祭というイベントで得た初めての優勝となったのであった。
私と涼磨は確かに幼馴染で、毎日のように遊ぶ仲だったし、友達としての好意は人一倍持っていたのは覚えている。しかし、それが“男の子としての好意へと変わったのがいつだというのは全くといって覚えがない。
ある日、涼磨が忘れたノートを届けるために早足で涼磨を追いかけたことがあった。先に帰る、と言って帰ってしまったから、焦ってノートを忘れたのだろうか。涼磨らしい。当時はそう思ったものだった。
しかし、早足で涼磨の家路を辿って行く途中、道脇の公園に多数の人影が見えた。子どもが遊んでいるのだろう、と最初は感じていたが、明らかに雰囲気が異なると肌で感じた。直感的に入り口近くの電柱に身を隠しつつ中を覗くと、そこには涼磨の姿があった。
そこには同じくらいの年齢の男の子がいて、涼磨を取り囲んでいた。
話の内容はなぜか私についての事らしく、あの男の子は私と仲良くしたいから、仲良くしている涼磨を妬んで脅してるようであった。
しかし話している中で、涼磨の口から予想もしていなかった言葉が出てきたのだ。
「ふん...全くくだらない話だな。坪倉さんと話したいのなら自分から話に行けばいい話だろうに。坪倉さんは俺にとって大切な友達なんだ。仲良くしているのはそれだけの理由だ。付き合いにそれ以上もそれ以下の理由も必要ないだろう?」
”大切な友達“。この言葉がどれほど私の心に響いたことか。面と向かって言うことは絶対にない、そして涼磨らしくない言葉。だからこそ、それは余計に心に突き刺さったのだ。
そんな言葉が妙に囲んでいる男子の中のリーダー格の子への煽りになったようで、指示とともに集団で襲いかかろうという体勢を取っていた。
私は止めなくちゃ!と思いながらも、足が震えて動かなかった。動けといくら念じても足が地についたまま動かない。何もできない自分の情けなさを身に受けながらも、目を離すわけにはいかないと涼磨を見つめる。
そしてリーダー格の男子が襲いかかったのを契機に、周りの取り巻きも同じように襲いかかった。しかし、その時間はあっという間であった。目にも止まらぬ速さで攻撃を避けてカウンターを入れる。圧倒的不利だと見ざるを得ない状況をたった数十秒で打破したのだ。
春乃は、自分の情けなさを痛感するとともに、その心に新たな感情が芽生えたのを感じた。
涼磨への見方が変わったのはこの時なのだろうか。当時の自分には全くそんな感情を持っているとは気づいていなかった。その出来事から数日が経ち、親に急な引っ越しを告げられて別れも言えずに離れ離れになってしまった。それが積もったその気持ちを気づかせたのだろうか。
だからこそ、再会を果たせたことが誰よりも、なによりも春乃はそれが嬉しかったのだった。
◇
体育祭当日、空は曇で覆われており、若干の肌寒さを感じさせていた。前日の天気予報では雨の可能性がある、と言っていたから少しばかり心配だった。もちろん俺だって普通に授業を受けるよりもこういったイベントの方が楽しい。それに、今回は強制的に全員が出場させられる競技しかエントリーしていないため、かなり楽なのだ。ほとんどは競技が消化するのを見届けるだけ。
競技はつつがなく進行し、俺の出る競技も終わって幾分気楽になった。徒競走は1位にならないくらいの速度で走り、咎められないちょうどいい結果で終えた。
棒倒しはなぜあんなに危ないのに競技として存在するのだろうかと思うくらい激しい戦いだった。棒を倒しにきた生徒が棒を抑える選手を殴ったり蹴ったりするのも見受けられるくらいで、かなり引いてしまった。自分の競技は全部午前で、午後は最後のクラブ対抗リレーだけになった。
昼食タイムもいつものように済ませつつ、午後の集合がかかった。最初は応援合戦から始まるようで、生徒気合の入った顔を見るに、1番大きい点数を稼げて差をつけられる競技なのだろう。
午前の競技が終わった時点で1位赤組2位黄組3位青組で、俺たちは最下位を定位置としつつあった。だからこそクラスの皆はやる気に漲っており、これで一位を取れば逆転できるかもしれないという可能性を信じているようだった。
応援合戦が始まると、午後一発目にもかかわらず大きな盛り上がりを見せていた。こういった競技もなかなか楽しめるもので、見ている分には面白かった。
俺たちの応援合戦が終わって少し経つと、応援合戦の順位が発表された。
「応援合戦の順位を発表します。3位、赤組。2位、黄組。1位は青組です!」
生徒のやる気がそのまま結果に反映されたようで、見事に1位を取って、総合順位でも僅差ながら1位に躍り出た。
そこからも学年、クラスごとの競技が続き、体育祭もラストスパートに入った。
「プログラム15番、色別対抗リレーです。選手のみなさん、入場してください。また、クラブ対抗リレーに出場する生徒は入場口へ集まってください」
放送部の放送が入り、クラブ対抗リレーに出る俺は入場口へと向かう。正直気は向かないが、春乃にとっては売名のチャンスだろうし、出ないわけにはいかない。
クラブ対抗リレーのメンバーには文化系の部活の生徒も多く見られた。中には白衣を着て走るつもりなのか、理科学部の生徒もいて、思わず吹きそうになってしまった。
「プログラム20番、クラブ対抗リレーに出場する選手は準備をしてください」
そうこうしているうちに色別対抗リレーが終わったようで、俺たちにも集合の合図がかかった。ふと得点板を見たものの、もう得点は隠しているようで、何も入っていなかった。最後の盛り上がりには不可欠なのかもしれない。
入場口の先生から合図が出て、それに沿って入場口から中に入る。中はやはりなれない空間で、緊張感を肌で感じ取れた。
審判の先生に促されスタートラインについたのは、トップバッターのだった。このリレーは男女が交互に走る方式で、天文部は日向さん→平田くん→恵理→慎一→春乃→俺の順で、アンカーは2週走るのだが、俺がアンカーになったのは副部長だからという理由らしい。なんとか最下位は避けたいところだ。
位置についてのコールがかかり、ピストルの音とともにスタートした。
始まりから、運動部と文化部の差はつくばかりで、文化部の俺たちには厳しい戦いだった。恵理が最終コーナーに差し掛かったところですでに半周差がついていた。 しかし、慎一が怒涛の勢いを見せる。女子がいるからだろうか、その顔は気合いに満ち溢れていた。
慎一は中学の時バスケをやっていたと言っていたが、思ったより全然足が速かった。運動部に遜色ないどころか超える走りを見せ、差を1/4週にまで縮めた。春乃にバトンが渡り、走り始めると必死に食らいつく。
「涼磨、結構いい線行ってるんじゃないか?こうなったらお前、あの運動部の奴らに目にもの見せてやれ」
つまり抜かして一位になれと言うのだろうか。俺はといえば走るどころか自分がそれほど速いのか試したことがない。そんな機会もなかったし、徒競走の時も一位の背後について行っただけだ。
春乃の姿が徐々に大きくなる中、俺の横で運動部の選手がバトンを手渡しながら追い抜いていく。
そのすぐ後、春乃のバトンが俺の手に渡った。
(とりあえず1位を目指して走るか...)
武道大会以上に目立つことなどないだろうとタカをくくり、ばとんを手に取った俺は、ハイスロットルで前を走る運動部の背中を追いかけた。
1周目の最初から飛ばしていった俺は、自分が思ったよりも速い速度で足が進み、運動部の最後尾にいるバレー部の選手を射程圏内に捉えた。
やがて、1周目を走り終えるとバレー部と並び、1位を走る陸上部の背中も見えてきた。
(あれを抜かせたらいいんだろうが、流石に無理だ)
「あいつ速くね?文化部だろ?」
俺のことを知らない生徒が、天文部の部員ということを知って驚いていた。そして、クラスのやつも視界に入り、大声をあげていた。混ざって何を行っているのか聞き取れはしなかったが、応援の意だとはなんとなく察した。
それなりの順位を目標にしていたはずの俺も、いつのまにか1位を目指していた。しかし、その後ろを走るサッカー部なら抜かせるかもしれないと思い、さらにギアを上げた。ぐんぐんとその背中が大きくなってくる。とは言えども相手は毎日走らされているであろうサッカー部。その足腰の粘りは尋常じゃなかった。最後のカーブに入ると、水を得た魚のように速度を上げて、そのままゴールしてしまった。
俺はその後を追うようにラインを超え、陸上部、サッカー部に次ぐ3位だった。天文部としては大健闘だろう。4位以降の運動部は俺らに顔向けできないかもしれない。天文部に負けてしまったとなると監督に怒られるなんてことも予想できる。
何はともあれ、これなら文句は言われないだろう、そう思って待機の列に戻ると、後ろから大きな衝撃を受けた。
「すげえじゃんか!運動部を抜かすなんて!」
春乃や一年生の2人も同じように賛美の声を送ってくれたので、言われた側として悪い気はしない。恵理はいつも通りだったが。
「それでは、閉会式、ならびに結果発表に移りますので、全クラスは整列してください!」
朝並んだのと同じ隊形になるよう指示されたので、俺たちは駆け足で出来かけの列に入って、始まるのを待った。
「まずは結果発表から始めます。得点板係は、1桁目から3桁目、2桁目の順番にボードに数字を並べてください」
指示通り、得点板に数字が並んで行く。赤組は5、青組は0、黄組は9だった。そして、3桁目は全組4で、あとは2桁目を残すのみとなった。会場は今日1番の緊張感と沈黙が漂っている。
「最後は一斉にお願いします!」
二桁目の得点板は全組同時に入れられた。目に入ってきたのは赤が4、青が5、黄が2だった。
会場全体は数秒の沈黙を経て、大きな歓声が響いた。そして、この日は俺にとって体育祭というイベントで得た初めての優勝となったのであった。