見上げてごらん、夜空に輝くあの星を
合宿
体育祭が終わり、中間試験を経て再び通常授業が再開した。5月の末に行われた中間試験は、慎一含め数人爆死したやつはいたものの、なんとか過ぎ去ってその余韻に浸っていた。

「中間試験が終わったと思ったら後ひと月もしたら期末試験かよ...どんな日程組んでるんだ」

慎一が部室でダラけながら愚痴をこぼす。しかし、確かに試験を終えたばかりでまた試験は俺も良い気はしない。流石に頻度は弁えて欲しいが、何を言っても変わらないので口を閉じておく。

慎一が机に伏しているのを見て呆れる恵理も、過密日程に疲れているようだ。顔から疲れが見える。

俺が軽く息を吐きながら窓の外を見つめていると、ガチャとドアが開く音が耳に入る。音に反応してそちらに目を向けると、春乃が入ってくるところだった。

「みんなちょっと話があるんだけど、集まってもらえる?」

春乃の第一声はそんな言葉で、俺たちは軽く首を傾げながら春乃の周りに集まった。

「4月に言ったと思うけど、7/7、7/8に天文部で合宿をするっていう話なんだけど、場所は栃木県の那須高原!空気が澄んでて街の明かりも少ないから星がよく見えると思うの。どうかな?日程とか勝手に決めちゃったけど、行けないとかないかな?」

春乃は皆の顔を見渡す。誰も声をあげないのを見て、反対意見は無いと見たのか頷いた。

「大丈夫...かな。勝手に決めちゃってごめんね。田舎の空って本当に綺麗だから、みんなに一度見てもらいたいんだ!」

満面の笑みを浮かべる春乃を見て、俺たちも自然に笑みがこぼれた。

「いいな、それ!旅行みたいで楽しそうじゃん!」

慎一は先程の満身創痍な体勢は何処へ、テンションが上がって椅子から跳ね上がっていた。

「詳しくはRINEのグループに貼っておくから、後で読んで親御さんにもしっかり見せて相談してね!よろしく!」

この日はどういう道具を持っていくとか、服装だったりとそう言ったことについて話し合って終わった。泊まる場所なんかは春乃が考えてくれているそうなので、任せることにしたのだった。














期末試験が7/5に終わり、6日のテスト返却を経て、その日はあっという間にやってきた。

試験の間は合宿のことなんて頭になく、終わった瞬間に情報が蘇ってきた。試験期間も勉強に傾倒していたことであっという間に過ぎ去ってしまったのだ。


朝鎌倉駅に集合して、新宿からバスで向かう予定だ。手元の時計を見ると、集合の8時になるというところだった。8時を少し回ったところで慎一が来て全員が集まった。

「ごめんごめん、荷物が多かったから思った以上に時間がかかった」

俺と慎一は観測用の道具を運ぶ係だ。流石に重い荷物を女子陣に持たせるわけにもいかず、ここまで背負ってきたのだ。

「まぁ余裕があるから大丈夫だろ。バスは10時の出発だからな」

バスで行くことでかなり費用を抑えることができたのだが、荷物をそこまで持っていくのは少し大変だ。

「じゃあ出発しよっか!」

電車は逗子始発の列車で、車内は空いていた。車両の端を陣取り、これから乗ってくる客に迷惑がかからないように配慮した。

新宿まではちょうど1時間の所要で、バスが発車する45分前に到着した。食料などを補給しつつ、時間を待ってバスへと乗り込む。

天体観測は夜だが、昼間のうちにセットしておくのが1番効率が良いのだ。夜は手元が暗かったり、標高が高く肌寒い可能性もあるので、設置して天候を見つつ待つのが最善策だ。

バスの中でトランプやUNOに耽っていると、あっという間に到着した。栃木は思ったよりも近く、そして思ったよりも暑さを感じなかった。


「とりあえずホテルにチェックインして、機材を設置しにいこう!」

天気は運良く快晴で、標高が高いと気候が変化しやすいとはいえど、これからの天体観測が成功するイメージが既に頭に浮かんできていた。

ホテルは山の山麓のような場所にあり、冬はスキー客で賑わいそうな場所にあった。実際にここにくるまでにスキーの施設があったのが目に入ったので、都心から近いこともありかなりの人気スポットであることが予想できる。

ホテルから程近くの少し開けた場所に望遠鏡や仮設テントなどを置いて、夜を待つことにした。

6時をすぎて夜ご飯を食べ終わると、少し雲が出てきたようだったが、夏の空はまだまだ明るく、天体観測には早い時間であった。

「大丈夫かな?雲が出てきたみたいだけど...」

その心配をそのまま口にしたのは春乃で、主催した本人としては絶対見せたいと思っているのだろう。

このまま待つしかないのが今の状況だったが、7時を回ると日が完全に沈んだものの、雲で月さえも隠れていた。

不安を胸ひたすら待っていると、時計が9時に達しようという時、ついに雲が晴れてきた。

このまま雲が綺麗に晴れるのを期待して、俺たちはホテルの近くの望遠鏡を置いた場所へと向かった。

空を見ながら数十分待っているとついに雲が完全に晴れた。

「うわぁ....」

真っ先に声をあげたのは、日向さんだった。

1年生にとって初の天体観測とも言える、この夜空は、俺にとっても本当に綺麗で、見惚れるほどのものだった。

「これは...思った以上にすごいわね」

恵理も同じように思ったようで、感動を表情に賑わせていた。

星空は都心で見るものとは180°異なり、ひとつひとつが確かな存在感を示していた。本来なら明るいと見えないはずの暗い星も、目にしっかりと収まっていた。

「よしっ!皆んな、望遠鏡の準備できたよ!本当に綺麗だから、しっかり見てね!」

調整が済んだようで、俺たちに星空をその目に焼き付けるよう促す。

一人一人、写っている星空を見ていくが、皆声にも出ないくらい感動を露わにしていた。それほど綺麗なのだということなのだろうか。俺は望遠鏡を覗くのは本当に久しぶりで、言ってしまえば小学生のあの時以来目にもしていなかった。何も考えず見たままを心に収めようと俺は望遠鏡を覗き込んだ。


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