見上げてごらん、夜空に輝くあの星を
春乃が去っていったのを見届け、俺は先生の方へと向き直ると、徐に話し始めた。
「お前が越知か。俺が担任の松代だ。これからよろしく。今日からうちのクラスに入るわけだが、すでに転学の手続きとかは済んでいるから、今日からこのまま授業を受けても構わん。どうする?」
(授業か... 自己紹介とか絶対しなくちゃいけないだろうし、先延ばししたところで気分も良くないしな)
何しろどうする?と言われて断れるほど肝は座っていない。今日何度目か分からない溜め息をつきそうになるのをなんとか堪え、先生の言葉に呼応する。
「やることもないですし、今日から授業を受けさせてもらいます」
あくまで自分から受けたいというわけではないが家に帰っても暇だからというようなニュアンスで答える。
「そうか。教室の場所わからないだろう?良ければ少し待っててくれれば一緒に行くが」
場所がわからないのもあるが、そもそも1人で教室へと向かったところで教室に入る勇気なんてないし、途中のアウェイな雰囲気を味わうのも気分が良くない。ということで先生と一緒に行くという選択肢を選び、待つことにした。
「そうですね、場所がわからないですし少し待ってます」
別に1人で教室に行くことにチキっているわけじゃないぞ。本当だって。
「わかった。準備をするから外で待っててくれ」
「はい」
外に出て待っているように促されたので、背を向けて入ってきたドアへと向かおうとする。
「ああ、そうだ。これをやろう。坪倉の部活に入るならこれが必要だろう」
そう言って渡したのは入部届けだった。
「あ、はい。もらっておきます」
(こうなったら入る以外ないじゃないか.... というかなんの部活なんだ?)
先生の目の前ではぁ...とため息をつくわけにもいかず、早足でその場を去った。
(何回ため息つくんだ俺は...)
この状況だとため息を吐くと幸せが逃げるなんて言葉が実現しそうな流れだ、と思った。
出てくる他クラスの教師陣を横目に5分ほどドアの近くで待っていると
「待たせたな、行こうか。うちのクラスは3階だ。聞いているだろうが、1年4組がお前のクラスだ。まああと3ヶ月ちょっとでバラバラだけどな」
他の学校がどうかは知らないが、この高校は1年と2年の進級時にクラス替えを行うが、2、3年は同じクラスのままなのだそうだ。受験とか色々多忙な時期に入ってくるから当然かもしれない。
そうこうしているうちに教室へ着いた。
「ここが教室だ。ちょっと待ってろ」
そしておはようと言いながら教室の扉を開けて入っていく。
たった5分程の間だったが、嫌に長く感じられた。これからおそらく自己紹介なんかをさせられるんだろう。
(嫌だなぁ.... 緊張する)
手汗を必死に拭いながらも、顔には出すまいと平成を装ったまま直立の体制を保ち、“その時”を待った。例えるならばあれだ。死刑囚が自分への執行をただひたすら待つのと似ている。まあ死刑囚の気持ちになったことなんてないけど。
「じゃあ入って来ていいぞー」
先程まで微かには聞こえていたが、松代先生はそれまでよりも少し大きな声で、俺に聞こえるような声で俺のことを呼んだ。
「は、はい」
いかんいかん。声にまで動揺を出してどうする。
教室へと入った途端、一瞬シーンと静まり返る。
(うわ.... こういうの苦手なんだよ)
一段教壇用にステップがあったが、さらに目立つのだからこの時ばかりは恨まざるを得ない。
教壇の目の前に立つと、クラス全員の視線を集めているのを肌で感じた。この時点でクラスに知った顔がある、どころか視界にいるこれからのクラスメイトの表情さえもうまく認識できない。
「え、えっと。越知 涼磨です。愛知県から来ましたが、小学生までこの町に住んでいました。これからよろしくお願いします」
当たり障りないだろうか。教壇に立ったと同時に、これまでは皆と仲良くなれるような自己紹介をしようと息込んでいたのに、いつの間にか悪目立ちしないように、変な目で見られないように、そんなことばかり考えていた。
(またやっちまった... 高校の時と変わらないじゃないか)
ため息を吐きたい気持ちをグッと抑え、小さくお辞儀しつつ、先生の方を向く。
「ん?もう終わりか?まあいい、席はさっき用意しておいたから、廊下側の1番後ろの空いているあの席に座れ」
「....はい」
一拍付いて前を向くと、目の前のクラスメイトが一斉に拍手をしだした。
「よろしく!」
大抵がそんな短い一言を添えてのものだったが、その一言だけで少し救われたような気分になった。
それとともに気持ちが徐々に落ち着き、周りがよく認識できるようになると、俺がこれから座る席の隣は、奇遇と言うべきか春乃であった。
「よろしくね、涼磨!」
歯を少し出しながらこちらへ向いたが、正直気まずかった。いきなりクラス全体が俺に注目している中で、俺のことを下の名前で呼んだのだ。何かあると思われても仕方ないことだ。
「今下の名前で呼んだよね?どういう関係なんだ...?」
大体の反応はそんなものだった。まあ想像した通りのことが起こっている。
しかし、この時間がホームルームだったことが幸いし、ザワザワとした程度で済んだ。
俺は大きく息を吐いて、指定された席へと向かった。
「お前が越知か。俺が担任の松代だ。これからよろしく。今日からうちのクラスに入るわけだが、すでに転学の手続きとかは済んでいるから、今日からこのまま授業を受けても構わん。どうする?」
(授業か... 自己紹介とか絶対しなくちゃいけないだろうし、先延ばししたところで気分も良くないしな)
何しろどうする?と言われて断れるほど肝は座っていない。今日何度目か分からない溜め息をつきそうになるのをなんとか堪え、先生の言葉に呼応する。
「やることもないですし、今日から授業を受けさせてもらいます」
あくまで自分から受けたいというわけではないが家に帰っても暇だからというようなニュアンスで答える。
「そうか。教室の場所わからないだろう?良ければ少し待っててくれれば一緒に行くが」
場所がわからないのもあるが、そもそも1人で教室へと向かったところで教室に入る勇気なんてないし、途中のアウェイな雰囲気を味わうのも気分が良くない。ということで先生と一緒に行くという選択肢を選び、待つことにした。
「そうですね、場所がわからないですし少し待ってます」
別に1人で教室に行くことにチキっているわけじゃないぞ。本当だって。
「わかった。準備をするから外で待っててくれ」
「はい」
外に出て待っているように促されたので、背を向けて入ってきたドアへと向かおうとする。
「ああ、そうだ。これをやろう。坪倉の部活に入るならこれが必要だろう」
そう言って渡したのは入部届けだった。
「あ、はい。もらっておきます」
(こうなったら入る以外ないじゃないか.... というかなんの部活なんだ?)
先生の目の前ではぁ...とため息をつくわけにもいかず、早足でその場を去った。
(何回ため息つくんだ俺は...)
この状況だとため息を吐くと幸せが逃げるなんて言葉が実現しそうな流れだ、と思った。
出てくる他クラスの教師陣を横目に5分ほどドアの近くで待っていると
「待たせたな、行こうか。うちのクラスは3階だ。聞いているだろうが、1年4組がお前のクラスだ。まああと3ヶ月ちょっとでバラバラだけどな」
他の学校がどうかは知らないが、この高校は1年と2年の進級時にクラス替えを行うが、2、3年は同じクラスのままなのだそうだ。受験とか色々多忙な時期に入ってくるから当然かもしれない。
そうこうしているうちに教室へ着いた。
「ここが教室だ。ちょっと待ってろ」
そしておはようと言いながら教室の扉を開けて入っていく。
たった5分程の間だったが、嫌に長く感じられた。これからおそらく自己紹介なんかをさせられるんだろう。
(嫌だなぁ.... 緊張する)
手汗を必死に拭いながらも、顔には出すまいと平成を装ったまま直立の体制を保ち、“その時”を待った。例えるならばあれだ。死刑囚が自分への執行をただひたすら待つのと似ている。まあ死刑囚の気持ちになったことなんてないけど。
「じゃあ入って来ていいぞー」
先程まで微かには聞こえていたが、松代先生はそれまでよりも少し大きな声で、俺に聞こえるような声で俺のことを呼んだ。
「は、はい」
いかんいかん。声にまで動揺を出してどうする。
教室へと入った途端、一瞬シーンと静まり返る。
(うわ.... こういうの苦手なんだよ)
一段教壇用にステップがあったが、さらに目立つのだからこの時ばかりは恨まざるを得ない。
教壇の目の前に立つと、クラス全員の視線を集めているのを肌で感じた。この時点でクラスに知った顔がある、どころか視界にいるこれからのクラスメイトの表情さえもうまく認識できない。
「え、えっと。越知 涼磨です。愛知県から来ましたが、小学生までこの町に住んでいました。これからよろしくお願いします」
当たり障りないだろうか。教壇に立ったと同時に、これまでは皆と仲良くなれるような自己紹介をしようと息込んでいたのに、いつの間にか悪目立ちしないように、変な目で見られないように、そんなことばかり考えていた。
(またやっちまった... 高校の時と変わらないじゃないか)
ため息を吐きたい気持ちをグッと抑え、小さくお辞儀しつつ、先生の方を向く。
「ん?もう終わりか?まあいい、席はさっき用意しておいたから、廊下側の1番後ろの空いているあの席に座れ」
「....はい」
一拍付いて前を向くと、目の前のクラスメイトが一斉に拍手をしだした。
「よろしく!」
大抵がそんな短い一言を添えてのものだったが、その一言だけで少し救われたような気分になった。
それとともに気持ちが徐々に落ち着き、周りがよく認識できるようになると、俺がこれから座る席の隣は、奇遇と言うべきか春乃であった。
「よろしくね、涼磨!」
歯を少し出しながらこちらへ向いたが、正直気まずかった。いきなりクラス全体が俺に注目している中で、俺のことを下の名前で呼んだのだ。何かあると思われても仕方ないことだ。
「今下の名前で呼んだよね?どういう関係なんだ...?」
大体の反応はそんなものだった。まあ想像した通りのことが起こっている。
しかし、この時間がホームルームだったことが幸いし、ザワザワとした程度で済んだ。
俺は大きく息を吐いて、指定された席へと向かった。