大王(おおきみ)に求愛された機織り娘
その直後、大粒の雨が屋根を打ち付け始めた。

バラバラ バラバラ と大きな音を立てて打ち付ける雨は、一瞬にして空を黒雲で覆い、辺りを暗くした。

「これじゃ、しばらく機(はた)は織れないわね。」

母が呟いた。

そう言われて、私も手を止めた。


程なくして、しばらく治まっていた喧騒が小屋の外に戻って来た。

蹄の音に水を撥ね上げる音が混じって、さらに騒がしい。


ガタン!!

突然、小屋の入り口の引き戸が開けられた。

な、何!?

雨に濡れた男たちが、さも当然のように小屋の中に入ってくる。

私は勇気を振り絞って立ち上がった。

「ここは神聖な機織り場です。
何人(なんぴと)たりとも、この場を穢す事は
許されません。
出ていってください。」

私が膝を震わせながらそう言い募ると、40歳は超えているであろう男が前に出て言った。

「こちらにいらっしゃるのは、香久山大王
(かぐやまの おおきみ)ですぞ。
言葉を謹みなされ。」
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