大王(おおきみ)に求愛された機織り娘
ハヤは、ハッと息を飲んだ。

「それから、大王は、私が香久山へ行った
その日、ハヤを想う私に約束してくれたの。
ハヤが迎えに来るのを待っててやるって。
だから、私がハヤではなく、大王を愛しいと
想えるその日まで、私とは添わないって。」

口を開いたのは、兄だった。

「アヤ! それって、まさか!?」

「ふふっ
驚くわよね。
大王は、私の事を愛しいと想ってくださるし、
これ以上ない程、慈しんでくださる。
ひとりで寝るのが寂しい私に、毎晩寄り添って
寝てもくださる。
それでも、未だに、私とまぐわう事だけは、
なされないわ。」

兄もハヤも驚いた顔をするだけで、何も言わない。

「私がハヤを忘れられないせいで、
大王にずっと辛い想いをさせてるの。
だから、お願い。
ハヤ、私を忘れて?
私も、ハヤを忘れるから。」

ハヤが重い口を開いた。

「俺はアヤを忘れない。
この先、誰と添う事になっても、
俺の中のアヤは消えない。
だけど、アヤは、俺を忘れていい。
アヤは、俺を忘れた方が幸せになれる。
アヤの幸せが俺の幸せだから。
だから、アヤは俺を忘れろ。
忘れて、幸せになれ。」
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