大王(おおきみ)に求愛された機織り娘
私たちは、鹿皮の上に並んで座る。

「ふふっ」

私が笑みを零すと、

「どうした?」

と大王が私の顔を覗き込む。

「いえ、久しぶりに胸の中を馬が早駆けている
ように苦しいので、初めてここへ連れて
来られた時のようだと思い返して
おりました。」

大王は私の頬を撫でる。

「思えば、機織り小屋で大王に衣を拭いて
もらった時から、私は胸の中で早馬を飼って
いるようでした。
それが苦しくて、ずっと逃げ出したかったのは、
私がまだ子供だったからなのでしょうね。
大王には、たくさんご迷惑もご心配も
お掛けして申し訳ありません。
これからは、大王に相応しい妃になれるよう
努力いたしますので、どうかお見限りに
ならないでくださいね。」

そう言って、私は大王を見上げる。

「アヤ…
俺は、お前を離さないって言っただろう。
お前が俺を見限る事はあっても、俺がお前を
見限る事はない。」
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