大王(おおきみ)に求愛された機織り娘
「お願いです、大王。
これ以上、大王に辛い顔をさせたくは
ありません。
大王と過ごした日々はとても幸せでした。
ですから、大王、これ以上のご迷惑をかける
前に里へ帰らせてください。」

私が泣きながら頼むと、大王は天井を見上げた。

大王の目尻からこめかみに光る物が流れる。

ああ…
私はこの強い人を泣かせる程、苦しめている…
申し訳なくて、いたたまれなくて、また苦しくなる。


しばらくして、大王が口を開いた。

「1日だけ…
1日だけ、俺が桑の里へ連れて行ってやろう。
母の手料理なら、アヤも食べられるかもしれん。
それでも良いか?」

「………はい。
ありがとうございます。」

大王の心遣いが嬉しかった。
嬉しくて、また涙が溢れた。
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