大王(おおきみ)に求愛された機織り娘
「そうか。」

それっきり、機織り小屋に着くまで、大王は喋らなかった。


家に着くと、母と兄、妹たちが迎えてくれた。

私は馬上から声をかける

「ただいま。」

しかし、母たちは、「おかえり」とは言ってくれない。

代わりに出てきた言葉は…

「ようこそお越しくださいました。」

私は、娘ではなく、客人という事?

「うむ。
今日は世話になる。」

大王はそう言うと、馬から降りて私を抱き下ろしてくれた。

付き従ってきた供の人に手綱を預け、家に入る。

香久山の宮に比べると小屋ですらない小さな家。

そこには、昼にも拘らず、母の作った羹(あつもの)が用意されていた。

この時代、食事は朝晩の二食のみ なのに…
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