大王(おおきみ)に求愛された機織り娘
「初めて会った時にも言われたな。
あの時、俺は初めて大王に媚びない女に
会ったんだ。」

大王は、懐かしそうに語った。

「アヤは覚えているか?
その後、アヤが何をしたのか。」

「あなたが大王とは知らず、手拭いで
濡れた体を拭いて差し上げました。」

「その前だ。」

「その前?」

「アヤは、大雨の中を飛び出して、手拭いを
取ってきたんだ。
初めは、俺のために取ってきたんだと
思ったが、アヤは俺の横をあっさりと通り
過ぎ、葛城(かつらぎ)の手にそれを渡した。
しかも、それをみんなで使えと言った。
俺は、自分が濡れてまで、見返りなく
人のために働く女に初めて会った。
俺の周りには、傅(かしず)かれて当たり前の
媛と、給金のために傅く女官しかいないから
な。」

大王は、私の頬にそっと触れる。
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