大王(おおきみ)に求愛された機織り娘
大王がお泊りになる事は、供の方から里長にも伝えられたようで、里長の家に泊まるようにとの遣いが来た。

確かに、大王に泊まっていただくには、うちはあまりにも粗末だ。

しかし、大王は里長の申し出を退けた。

私は、遣いが帰った後で、大王に聞いた。

「こんな粗末な所で、
本当にいいんですか?」

「アヤはここの方がいいんだろ?」

大王が私の髪を撫でる。

「………はい。」

「だったら、俺もここがいい。
大体、長の家にはアヤの許婚だった男も
いるんだろう?
そんな所にアヤを連れていけるわけがないし、
ここにアヤを1人置いていく事もできない。
だったら、俺がここに泊まるのが1番いい。」



その夜、私は初めて大王と夜を過ごした。

母と兄と妹も一緒だったが、私は大王の胸で大王の腕に抱(いだ)かれて眠った。

夜毎、己の醜い思いに苛(さいな)まれていたが、今夜だけはそんな思いに煩(わずら)わされることなく、幸せな夢を見る事ができた。
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