大王(おおきみ)に求愛された機織り娘
月は出ているが、今日はまだ半月。

決して明るいとは言えない月夜に、私たちは松も持たずにのんびりと歩く。

大王は私の腰を抱き寄せ、私もされるがまま、寄り添って歩く。

「まもなく、月見の宴がある。
その時に、アヤを正妃として紹介したいと
思う。」

突然の大王の申し出に、私は驚いて足を止めた。

「いけません。
正妃は、豪族の媛たちからお選びください。
私のような里娘を選んでは、大王の名に傷を
付けてしまいます。」

私は慌てて断った。

「俺の名は、そのようなことでは傷つかない。
豪族の媛たちは、戦略上必要な人質のような
ものだから、帰す訳にはいかないが、
少なくとも妃である必要はない。
俺が愛しいと思うのは、ただひとり、
アヤだけなのだから。」

「しかし、媛君の父たちは、納得しないで
しょう?
自分より、強い豪族の媛ならまだしも、
その辺りにいる里娘など。」
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