THE FOOL
雛華さんの歯の感触をいたる所に感じる。
熱くて、チクリとして、でも痛みを感じる前にそれは緩む。
まるで・・・この関係そのものだ。
ギリギリで踏み込まない関係は甘さだけ広げて後々痛みになりそうな決定的な事はしない。
甘やかすだけ甘やかして、私に害をなすような事をこの人はしないんだな。
そんな結論が心の内で自分でもよくわからないうちに静かに打ち出され、気がつけば自分の指先が雛華さんの頭に触れて湿った髪を撫でた。
当然「ん?」と確認の様に覗きこんだ雛華さんに自分でも驚いた表情で理由を探した。
でも・・・、
そうか、
理屈じゃなかった。
触りたいと思うのは・・・・理屈じゃない。
「・・・・・触りたいと思いました」
躊躇いながらそう返せば、僅かに驚きに揺れたグリーンがすぐに嬉しそうに細まり、弧を描いた口元から軽い笑いが小さく零れた。
「それって・・・・俺の事好きってことだよね?」
「・・・・・す・・き?」
ああ、これにはさすがに慎重に答えなければいけない。
確かに【好き】か【嫌い】かと問われれば、【好き】。
だけど【好き】には色々な形があって、色々な大きさがある物なんですよ?雛華さん。
それでもなんだか期待と確信に満ちた彼の目に見降ろされ、子供の反応の様なそれに色恋の意味合いは感じられない。
「・・・・【好き】か【嫌い】かなら・・・」
「うん」
「好きです・・・」
「うん、俺も芹ちゃん大好き・・・・」
本当に・・・狡いなぁ。
子供みたいで、なのに大人の様な扇情的な甘さも私に与えて。
そのアンバランスな部分も私の微弱な探求心が働いてしまうのに。
それと・・・・、押し殺してた寂しさも。
屈託のない笑みで【大好き】だと言われた瞬間に、押し込めていた感情の塊が頬を伝って。
それに気がついたと同時に決壊。
次から次へと止めどなく流れ落ちる涙に雛華さんがさすがに驚愕して固まって、私と言えば隠す事もなくそれこそ子供の時の様な泣き方で堪った涙を解放してしまった。