THE FOOL
「ほーら、ひーたん。せめて『こんにちは』くらいは言おうよ」
そう言ってにこにこと雛華さんの頬を突っつきまわしている光景を、止めに入っていいのかオロオロと見つめていれば。
いたずらされる猫の様にそれをよけながら耐えていた彼の限界。
ドンッと大きな音が響いた事にビクリと身をすくめ、何事かと目を配らせば。
「・・・・・うぜぇよ」
響いた声は初めて聞く物。
さすがに声音ばかりは類似と言えず、それでも低いその音は好ましい物だとどこかで思った。
だけどもさっきまでぼんやりしていた彼の印象を覆す声とその姿。
壁に押しやられ、自分の頭の横に蹴りの入った茜さんは全く動じずにニヤリと笑い攻撃を仕掛けた雛華さんの頬を撫でる。
「ひーたんってば俺がけしかけないとその魅力を発揮しないんだからぁ」
いつもの事だと笑う茜さんが不満そうに眉根を寄せ離れた雛華さんを逃がすものかと後ろから腕を回す。
そうして私の前に問答無用に突きだすと、嫌でも視線が絡むように自身も身をかがめ私と雛華さんを対面させる。
「はい、芹ちゃん。コレ雛華で俺の叔父さんね~。で、雛華、この子はーー」
言いかけて茜さんも声を止めたのは、
何ていうかここまで?!という様な雛華さんの頑なな行動で。
目の前につきだされた瞬間からその眼を堅く瞑り、私と視線を絡ませる事を拒む態度。
私個人を嫌っているわけでないと理解はしていれど、若干呆れて言葉を失う。
本当にこの茜さんと血がつながっているのだろうか?
「ひーたん、雛華~、」
そう言って頬をつく仕草にも首を振る様は仔犬の様だ。
明らかに私より年上なのに。
見た目も引きこもりのせいか人の目を気にしないスタイルを貫いているみたいだし。
それでも、
そう、それでも・・・
「せっかく綺麗なグリーンアイなのに」
ぽつりと零した言葉。
意識したわけでもお世辞でもない言葉。
茜さんのそれも酷く綺麗なそれだったけれどチラリと見た雛華さんのグリーンアイはまた少し色身を変えてみる人を魅了する。
そんな感想。