THE FOOL
「例えば・・・・、好奇心の芽生えた子供がよく聞くでしょ?『アレは何?』『これは何?』『どうしてこうなの?』『どうしてああなの?』それこそ聞かれても答えられそうにない質問まで」
「ああ・・・、なんか・・分かります」
「雛華の場合はね。その情報源を読んでる本の中から見つけて興味を働かせるんだ」
「ほ、本の中・・から?」
「そう、子供の時からね、雛華はかなり狭い世界に生きてる。読んだ本と家族だけの世界。だからこそまだ知らない事だらけの現実に触れた時にその興味が爆発するんだろうね」
そう言って、雛華さんのすでに無造作な髪を更に崩すように撫でくる茜さんは、多分本当に雛華さんに好意を抱いている。
可愛くて仕方ないという様な反応に叔父と甥というよりは付き合いたてのカップルを連想してしまうほど。
叔父と甥といっても同い年なら友達感覚なんだろうなぁ。とぼんやり思った直後の衝撃。
えっ、何で?
と、思うのはさっきまでの態度を記憶しているから。
不意に戻した視線。
茜さんに絡まれている雛華さんにその視線を移せば、まさかずっと見てたのか?と、問いたくなるようなブレのない私への眼差し。
何故?
しかもようやく取り戻したサングラスさえ装着する事なくあのグリーンアイで見つめてくるものだから、なんとなく威圧され逃げるように視線を落とした。
「あ、雛華~、芹ちゃんを威嚇しないでよ?」
「芹・・ちゃん?」
「って、やっと名前をまともに聞き入れたのか」
仕方ない奴と罵られている雛華さんの視線は未だに私だ。
そうして雛華さんは私を清掃員と記憶している。
つまり・・・今更あの時の事を今度こそ根に持っているのではないかとビビってしまう。
ごめんなさい。
まさか茜さんの叔父さんだとはつゆ知らず、乱暴に本を取り上げて侵入者扱いしてしまいました・・・・。
心では床に頭を擦りつけるほどの謝罪を繰り返し、実際の姿は逃げ腰に身を縮める。
いつまでこの拷問が続くのかと苦しくなれば幕を引いてくれたのは愛しき婚約者さま。