THE FOOL
まさか・・・、まさかだよねぇ?
そんな淡い期待で笑っているのか焦っているのか、微妙な表情で雛華さんを見つめれば悪びれない子供はにっこりと悪行を暴露する。
「芹ちゃんが寝ている間にあの仕事やめちゃった~。だから、今時間に追われる生活してないんだよ芹ちゃんは」
まるで俺が解放してやったと言いたげな言い分に、唖然とした後の放心。
ちょっと待って・・・・。
いきなり無職?
突きつけられた現実に言葉を失って固まれば、さすがに微動だにしなくなった私にどうしたの?と覗きこむ。
「芹ちゃーん?おーい、」
「・・・・・いて」
「ん?」
やっと弾きだした言葉はどうやら小さすぎて聞き取れなかったらしい。
それでも今まで控えめだった態度を改め、覗きこんでいる雛華さんを強引に押し返すと再度の牽制。
「どいてよ!」
はっきり響かせ声も態度も表情も怒っているとあからさまに示せば、予想外だったのか全てに驚き孕んだ雛華さんが茫然と私を見つめた。
もう、あんたの遊びに無邪気とか思えない。
そう遊びとも言える行動で私はたった今無職にされたんだ。
私の一言と気迫に完全に呑まれたらしい雛華さんから抜け出すのは容易なことで。
もう手錠はこのままでもいいとベッドから降りる。
そうして立ちあがって改めてみる部屋は高そうなホテルの一室で、その事にも苛立ち未だベッドで私を見上げる姿を睨み下ろす。
あんたは遊びで簡単にこんな部屋取れるでしょうけど、私はあの少ないバイト費に生活がかかってたのよ。
そんな言葉を胸で吐き捨て、フッと視線を外すと歩き出す。
よく考えれば誘拐されたままの青い作業着。
しかも手には手錠のスタイルは他者がみたらどんなプレイを?とも取られなくもない。
でもいい。
今はどう見られても全てが他人。
とにかく今は元の安定した生活に戻ることが最優先事項だと、憤りそのままの歩き方で寝室を抜け広いフロアを歩き入口に立った時だった。
グイッと肩を掴まれ引き戻され、そのまま壁に縫い付けられるとすぐに至近距離に寄る顔。
「・・・・・逃がさないって言ったら?」
「・・・・・一体、これ以上何がしたいんですか?」
さすがに体を占めていた怒りはもう雛華さんの威圧には大人しく従わない。