THE FOOL
聞きたくないと思うのに、抵抗もせずに聞いてしまったのは・・・。
すでに私が雛華さんの言葉に揺らいでいた証拠。
ずっと胸の内にあった小さな不安を見出して、この人は的確についてきたんだ。
嫌でも入りこむその音声。
録音されたそれには独特な雑音も入る。
それでも最初に響くのは、
『ねぇ、茜ちゃん、あの芹ちゃんって子・・・・本気で一緒にいるつもり?』
雛華さんだ。
そう気がついて彼を見つめる。
瞬間グリーンが悪戯に頬笑み集中しろと携帯を叩く。
『ん?ああ、なかなか興味深い感じだったんだけど・・・、ちょっとばかり期待外れだったかも』
次いで入りこんだのは、認めたくないのに酷く胸がざわめく彼の声。
私が間違えるはずがないと宣言できる茜さんの声で。
いつもは私に悪戯に甘い事を囁く声が、今は私を陥れる様な危険な響きを機械によって表された。
『何で?けっこう可愛い子だったよね?』
『芹ちゃんは可愛いよ。でも・・・俺って結構貪欲だからさ、手に入れたものの頂点を見ちゃえば飽きて別の物に興味が走るんだよね』
『ふーん、じゃあ、結婚はしないの?』
『するわけないでしょ。騙される方が悪いと思わない?』
ああ、きっと、
この言葉を弾いた茜さんはいつものように笑っているんだと理解した。
理解して、瞬間、
もう充分だと雛華さんを突き放す。
力いっぱいその体を押し返し、とてもまともに上げていられない顔を床に向け。
今は同じ顔である雛華さんを見るのは苦しすぎるとしゃがみこんだ。
なのに、追い打ちをかけたいらしい雛華さんが多分その顔に笑みを携えて声を響かせる。
こんな時に安堵したのは・・・、
声だけは類似しない2人の違い。
「ね?君の存在って茜ちゃんにはこんな扱いなんだよ?」
煩い・・・・。
「いい様にシンデレラみたいに持ちあげられて遊ばれて、完全に酔ったところで捨てられて悔しくないの?」
お願い黙って・・・。
「仕返ししたいでしょ?腹が立つんじゃない?」
悪魔の声が・・・煩い・・・・。