THE FOOL
「ねぇ、だからさ・・・・俺をーーーー」
最後のとどめの様にその声を響かせながら私の前にしゃがみこみ、膝に埋めていた私の顔を微笑みながら持ちあげた雛華さんがその声を止めてしまった。
悪魔の声がやんだ。
そう心底安堵して、すでにその痕残る頬に涙を流した。
そうして潤む目に映しこんだのは、酷く困惑したさっきまでの悪魔。
いや、もうその要素は皆無でただ目の前の私に動揺だけを露見する。
揺れるグリーンも茜さんとは違う物でよかった。
髪の色も癖もその表情も・・・・。
大好きだったものと違ってよかった。
そう思った瞬間に堪えていた最後の砦の決壊。
一気に溢れた感情と涙を両手で覆い、込み上げてくる嗚咽をそのまま部屋に響かせ蹲ってしまった。
醜態なのかもしれない。
騙されて、知らされて、泣き崩れて。
さっき雛華さんが言ったとおりに浅はかな勘違い女の末路。
それでも信じていたんだ。
寄り添って甘やかしてくれる彼の優しさは私が不安を感じるものではないと。
最初は警戒して、それでも毎日声をかけて距離を縮めてくれた彼を本気で好きになっていたのに。
「ふっ・・ううっ・・・うあぁぁ・・・」
「・・・っ・・何で?」
何が?「何で?」
そんな疑問も抱けずにただ悲しくて蹲り、ずっと困惑でフリーズしていた雛華さんがその声と一緒に私に手を伸ばしてくる。
「芹ちゃーーー」
触らないでっーーー。
そう思った。
そうして伸ばされた手を振り払うとよろりと立ち上がり扉に向かう。
「・・・っ・・待って、ねぇ、何で?こんな風に裏切られて怒らないの?・・・っ・・・何で泣くの?」
また・・・・探求心か。
もう、・・・いい加減にしてよ。
泣いてぼうっとしている頭で問われた質問をぼんやり考える。
自分で立ち続ける気力もなくて壁に寄りかかって思考を走らせ口の端をあげた。
「・・・・好きだから」
「えっ?」
「・・・・裏切られても・・・好きで苦しいから。・・・怒りよりも強く・・・・・悲しい・・・・」
言いきれただろうか?
口にすればまだ流したりない感情が目から口から零れて落ちた。