THE FOOL
そう、裏切られたと、騙されていたのだと知らされて尚、
あの存在が私を支える癒やしであったんだ。
再びその顔を両手で覆う。
泣くしか出来ない今の自分も酷く惨めで、それでもここにいるのももう意味がないとうっすら気がつく。
その瞬間にカチャリと響く音と小さな衝撃にその手を外すと、手首を繋いでいた手錠を優しく外す雛華さんが何故か悲しそうに私を見つめた。
そして何か言いたそうな雰囲気におどおどとして、まるで悪戯しすぎた子供がその結果に怒られる事を怯えている様だ。
でもきっと、そんな心情。
何故だろう?
その存在にさっきまでは確かに憤りを感じていたというのに、あまりにもさっきの雰囲気を掻き消して怯えて私を見つめる姿に思わず口の端を力なく上げ。
そうして頬笑み一つ残すと高そうなホテルのローカを歩き出した。
そう、もう、怒るなんて気持ちもない。
だって雛華さんが伝えてきたのは現実で、伝え方に問題はあっても真実なんだ。
真実を伝えられて怒るなんて間違っている。
私が出来るのはただ・・・・。
当たり前の生活を築く新たな仕事を探す事だけなんだ。
そう頭で弾きだすと自分の格好の惨めさも忘れて帰路につく。
ふらつく足でエレベーターホールに向かいそれに乗り込む。
降りてロビーに立てばそこは有名な高いホテルなのだと理解した。
そんなロビーを清掃員の制服で歩き抜き、チラチラ感じる視線を無視してようやく外に歩き出した。
雛華さんはどう私の事を茜さんに伝えるのだろう?
私の無言の帰路に何も口を開かずさすがに引きとめてこなかった彼はあの後会社に戻ったのだろうか?
そんな事をぼんやり考えて歩き、もう前を見なくても辿り着く家路をゆっくりと歩いていく。
ああ、求人誌でも買ってくればよかった。
今からでも新たな仕事を探さなければいけないというのに。
父や母はこの事をどう思うだろうか?
私の収入が消え、苦しくなる生活に眉根を寄せる?
ああ、今・・・、落ち込んでいる今は落胆した顔は見たくないと、重い足取りで自宅の前に辿りついた時だった。
フッと玄関の目前で足を止める。