THE FOOL





「・・っ・・・すみませ・・・恐かった・・から」


「ん・・うん、うん・・・・、よかった・・・間にあって・・・よかった・・・つけてきてて・・・・」



その言葉に特に非難するつもりはなくただ見上げれば、視線が絡んだ彼は非難されてると思ったのか慌ててその言葉を訂正し始める。



「っ・・じゃなくて、・・つけてきたのは理由があって・・あの、--」


「・・・・ありがとう」



あまりに焦っている彼に思わず口の端が上がるとその言葉がポロリと落ちる。


本来、誘拐し私の人生を掻き乱したこの人に怒りを感じてもいいくらいでこんなお礼の言葉はおかしいと他者に言われてもおかしくない。


それでも・・・・助けてくれたのだ。



「芹ちゃん?」


「・・・・・・ありがとう。・・・・どうしようかと思った。

恋人に裏切られて・・・、両親に裏切られて・・・、私にはもう何もないんだなって・・・悲しくて恐くて・・・」


「・・・・っ」


「『そっか、茜さんとの楽しい思いはこの未来を用意された私への最後の喜楽だったのかな?』って、思ってた」


「芹ちゃん・・・・、あの、・・俺・・・」



ああ、いいんですよ。


そんな切なげに必死に言い訳しなくても。


もう怒っていないし・・・むしろあなたには・・・・、



「・・・ありがとう。・・・・・雛華さんがいてくれて、助けてくれて嬉しかった・・・・・」


「・・っ・・・ちが・・・」


「・・・違う?・・・ああ、探求心?・・・勿論、・・・お支払頂いた金額はお返しします。・・どのくらいかかるか分からないけれど」



そう言って、その気があるとせめて何かで示したいと持っていた財布を取り出し入っていた数枚のお札を綺麗に整え両手で雛華さんに差し出した。


それを見て酷く困惑に揺れるグリーンアイに頬笑み返す。




「・・・とりあえず・・・・開始分です」


「芹ちゃん・・・」




まだ、揺れ動くグリーンアイに純粋だと感じて微笑みながらそのお札を雛華さんの手に握らせた。


雛華さんの指にハマっている黒のスクエアの石の指輪が印象的で、フッと視線を上にあげると黒によくあるグリーンアイ。


綺麗だと思う反面気がついた違和感にクスリと笑い、中途半端にかけたままだったサングラスをそっと外すとそれを告げた。




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