THE FOOL
「雛華さんは・・・・雛華さんのグリーンアイは綺麗です。隠してたら勿体ない・・・・」
外したサングラスを雛華さんの胸元にかけて一歩身を引く、そうしてお辞儀をすると驚き不動なままの彼の前から抜け出してもう誰もいない自宅に歩き出した。
・・・筈だった。
パシリと腕を掴まれて、驚く間もなく引き戻される。
そうして決して乱暴でなく近くの壁にその身を押し付けられると至近距離から覗きこむグリーンアイ。
ふわりと風が雛華さんの長い前髪を横に揺らし、時々はっきり映る緑はさっきと違って躊躇いがない。
そう、まるで・・・。
さっきの男達に向かった時の様に強気な眼差し。
一体なんだろう?
何か気に障る事を言ったのだろうか?と疑問で押し黙ると、雛華さんの手が顔の近くまで浮上して、その手にはさっき渡したお札が握られている。
「・・・・・ねぇ、俺が払った額分かってる?」
「・・・・っ・・」
響いた声と言葉に支払った金額が問題かと緊張する。
こういった返済なんかは覚えがなく、なにか間違いを犯していたのかと焦ってしまう。
しかも変に顔見知りだったものだから軽々しい感じに対応してしまったけれど、金額を考えれば失礼極まりなかったのかもしれない。
だって・・・・1千万だ。
そう、冷静になれば分かる事。
ただ・・・借金する相手が変わっただけの事。
それなのにどこか助けられたと勝手に感謝して、ああ、それは確かに「いい加減にしろ」と憤りを感じられても仕方ない。
自分の楽天的な言動行動に呆れるより早く、目の前に迫った新たな借金取りに焦って謝罪を口にする。
「・・っ・・すみませ・・・、ちゃんと、ちゃんと返していきますから・・・」
「・・は?」
怪訝な表情で発せられた一言にビクリと反応する。
これはさっきの男達よりも迫力が半端ない。
どうしたら怒りがとけるのかと視線も泳いで、今にも泣き出しそうに目頭が熱くなる。
「・・っ・・ごめんなさ・・・」
完全な・・・・泣き声だこれ。
なんとか弾きだした謝罪の言葉。
それがなんとか再構築していたダムを破壊し涙が流れる。