THE FOOL
遊ぼうと、なにか悪いゲームに誘う様なそれに、私に用意されているのはたったひとつの答えだけ。
「・・・・・は・・い・・・」
だってその返事以外の返答は、絶対に返しきれない金額の借金。
動揺露わの返事をなんとか返せばにっこりとその口の端をあげる姿は思い出したくない彼に似ている。
思わず視線を落とし、じりじり浮上しそうな負の感情に耐え始めた。
嫌だ、
思い出したくない。
出来たての傷は簡単にその痛みを強めて私を蝕む。
嬉しい気持ちが強かった記憶ほど大きな傷痕になっていって、今にも泣きそうに胸が熱くなった瞬間に優しくそれを冷やす手の感触。
ふわりと頭を撫でてくる手の感触に顔をあげれば困った様な頬笑み。
さっきまで威圧的だったそれが癒やす様な緑を私に向ける。
ああ、これは・・・・茜さんにはなかったもの。
「・・・・・泣かないでよ芹ちゃん」
「・・・・はい、すみません」
「・・・っ・・・・謝らないで・・・」
私が謝罪を口にした瞬間、僅かにその表情を歪めた雛華さん。
そうか、まるで自分が苛めた様な感覚に陥るから?
そう判断すると口を指先で押さえてもう言わないの意思表示をする。
それを上手く受け取ったのか、私を見つめてから僅かに口の端をあげた彼に安堵する。
だけど直後の衝撃。
まるで当然、必然の様に私の手に絡みついてきた雛華さんの指先。
しかも世に言う恋人つなぎ的なそれに驚いて言葉も出ないほどなのに、雛華さんはけろっと頬笑み歩き出す。
「ちょっ、雛華さ・・・」
「ねぇ、芹ちゃん。誘拐って言ったら拉致監禁だよね?」
「は、はぁ?!」
満面の笑みで言う言葉じゃない。
犯罪めいた言葉を酷く楽しげに口にする彼をよろめきながら斜め後ろからの角度で見上げて。
その言葉の答えになる意図を探る様に見つめていると。
「ねぇ、誰もしらない隠れ家みたいなのないの?」
クルリ向きを変え、無邪気な笑みで私を見つめたのは好奇心旺盛な子供。
ああ・・・覚醒モード。
そう確信を得て脱力する。