THE FOOL
ぶっちゃけちゃうとですね。
茜さんとこんなことするのは初めてです。
勿論、私だって茜さんの前につきあった経験もこんな時間も経験済みなわけで。
初めての羞恥はあれどそんなに翻弄されることはないと油断してました。
私の経験知なんて地の底に等しいんですね。
捉える姿が妖艶で綺麗すぎて。
こんな人に好かれて求められるのは人生最大の好機なのだと思ってしまった。
そして綺麗なグリーンアイ。
酷く私に意地悪だけども甘い彼。
「っ・・・茜さん・・・、好き・・・・」
その湧きたつ感情を伝えたくて、陳腐だと思えど口にした。
そして・・・正解だったと思う。
私の言葉を耳にするなり子供のように心底嬉しいという様な満面の笑みを浮かべた彼が、私の唇を軽く啄むと言葉を落とした。
「芹ちゃんが大好き・・・・」
ごめんなさい。
また可愛いと思ってしまった事。
今度は内緒。
その言葉に頬笑み返せば今度は体にその感情を刻みこまれて熱に沈んだ。
「・・・・・痛い」
自分の声を響かせて、おばさんの様に曲げた腰をさすってぼやいてしまう。
フッと顔を上げれば疲労に染まる自分が鏡に映り込み、苦笑いでその姿を見つめた。
「これでも20歳・・・・」
まるで言い聞かせるようにその若さを自覚しろと鏡の自分に言い聞かせると、なんとかまっすぐに腰を伸ばして息を吐いた。
鏡に映り込む自分の全貌。
背中まである長い髪を後ろで一つにまとめ上げ、更に三角巾で押さえこむ。
その服装は青い地味な上下の作業着で、今いるそこは某会社の綺麗なトイレ。
そう、それが私の仕事。
清掃員のバイトをほぼ毎日シフトでがっつり入れて、私の姿を知らない人はいないのではないかというほどその会社に存在する。
悲しいかな裕福でない我が家。
高校を出れば有無を言わさず就職の道を選ばされ、このご時世で片っ端から落ちた面接。
結果バイトで清掃員。