THE FOOL
癒やしへの探求心
「ああ、これ知ってる。【廃屋】?」
「・・・・【廃屋】じゃないです。雑草が生い茂っているだけですから」
雛華さんが目の前に立ちはだかる・・・・とは、言わないけれど目前にある建物を見上げそう呟いて。
すかさず訂正するのも躊躇ったそれを一応口にした。
雛華さんに【隠れ家】を要求されて瞬時に浮かんだのはこの新しい住宅地にひっそりと隠れるように建っている古民家。
しばらく放置されていたそこは自分の祖父母が住んでいた家で、その家を守っていた祖母が亡くなってからは放置しっぱなし。
草木は伸び、青々伸びた竹が塀垣の様に古い家を囲んで守って、さわさわと風によって音を立てる。
懐かしい感覚に思わず立ちつくしその建ち構えを見上げていれば、気を引くように指先に込められた軽い力。
ああ、そう言えばまだ繋いだままだった。
それに気がつき僅かにドキリとし雛華さんを振り返った。
絡んだグリーンアイが不思議そうにこちらを見降ろし声を響かせる。
「・・・入らないの?」
「あっ、はい。入りましょうか」
促され自分の動揺を悟られないようにその手を離して先に入口に向かい鞄から鍵を取り出す。
今まで繋いでいた手が熱の余韻を広げていて、そこに触れる風の冷たい事。
少し物悲しい気持ちに驚いて、それすらもおかしな感情だとギュッと目をつぶってから古びた鍵を差し込んだ。
昔ながらの僅かに面倒な鍵。
差し込んで押し込んで捻る。
そんな手間かかる鍵はただでさえ厄介なのに軽くスムーズに回らないそれに苦戦してもたもたしてしまう。
それでも不意にカチャリと開くのも特徴で、そうして小気味いい解錠音を確認すると、ふうっと一息つき後ろで待っていた雛華さんを微笑みながら振り返った。
・・・・筈が、
「・・・ど、どうしました?」
一気に苦笑いに姿を変えた自分の表情。
理由を語れば振り返った誘拐犯が至極不機嫌そうに顔を歪めて自分の手を見つめていたから。
そうして私の声に反応して顔をあげると軽く息を吐き不機嫌な声を響かせる。
「別に~」
「・・・・・どうぞ」
おずおずと今開いた引き戸の奥へ手を添え誘導すると、私の前を素通りして中に入る姿。