THE FOOL
な、何でいきなり不機嫌?
あっ、ボロい!?こんなところで住めねぇよ!!みたいな?
急変した雛華さんの態度にビクビクしながら自分も懐かしい筈のその空間に入りこむ。
僅かにカビ臭さが鼻につくことでその放置した時間を身にしみて、それなのに配置や置いてある物の不変に不思議な感覚に陥ってしまう。
時間の止まった様な空間。
そう思って周りを見渡して、変わらないそれに安堵して息を吐いた。
今は不変が落ち着く。
そう色々変わりすぎた数時間に今は酷く疲れていたから。
そうして砂埃舞う土間を抜け、バリアフリー何て文字が皆無の高い玄関で靴を脱ぐと部屋に上がった。
古めかしい廊下は歩くときしきしと鳴ってくる。
それすらも昔と変わらず、思わず嬉しくて微笑むと最初の部屋のふすまに差し掛かり、すでに開いていたそこを覗き込むと昔には存在しなかった人の姿。
他人でもない。
先に上がりこんでいた雛華さんの後ろ姿だ。
そう言えば不機嫌なのだったと思いだし、どう声をかけようか迷っていれば振り返ったグリーンアイが私を捉えて目を輝かせる。
ん?なんだ?なんだ?と疑問を返すとその表情のままに私に近づき、さっきの不機嫌などなかったかのように嬉々とした声を響かせる彼。
「ね、ね、ここ凄いね。文化遺産?」
「・・・・ただの古い空家ですけどね」
「俺こんな家や家具を見たの本の中でだけだよ!すっごい!興味深い!!」
そう言って、まるで初めて遊園地にきた子供の様に好奇心旺盛に動く回る姿に呆気に取られ。
でもすぐに彼がお金持ちのお坊ちゃんだった事を嫌でも思い出した。
だって、茜さんの叔父さんだしね。
思い出してしまった事に僅かに眉根を寄せ、それでも口元に弧を描いてそれを誤魔化していれば、
不意にこちらに視線が移った雛華さんが、今までの興奮を掻き消すとまっすぐに私を見つめゆっくりと歩み寄った。
何事かとその場に立ちつくしたままでいると、直後の衝撃。
立ち止まる事なく私に向かってきた姿が、その距離を僅か5センチに縮めても留まらず。
驚いた次の瞬間には私は雛華さんの熱を全身に感じた。