THE FOOL




今日も無事に役目を終えた。


そんな溜め息をつきながらロッカールームの鏡を見つめる。


青い作業着を脱ぎ、ハンガーにかかっていた自分の私服に手を通しながら再度の確認。


チラリと捉えた鏡の自分にそれを見つけて固まってしまった。


茜さん・・・だ。


思い出したそれに羞恥が走り、それでも服をしっかり纏ってから再度鏡を覗き込む。


自分の捉えたそれに指先で触れて、存在をアピールする鮮明な赤に眉根を寄せる。




「こんな見える所に~」




いや、今の今まで気づかなかった自分も相当馬鹿だ。


つまり私はこの所有印を大ぴらに今日一日働いていたって事なんだ。



「あり得ない・・・・」



醜態と言えるそれに想像を馳せれば耐え切れないと床にしゃがみこむ。


そして今更ながら鞄をあさると大判のバンソーコを取り出しそこを覆った。


あからさまな感じだけど現実として取られるより、予測で囁かれた方がまだ耐えられる。


そう自分に言い聞かしロッカールームを後にするとローカを歩く。


社員通用口に向かって真っすぐに歩いてその入り口を捉え、帰りにどこか寄って帰ろうかと思案していれば後ろから巻きついてくる手。


驚く間もなく引き戻された体が勢いのまま引き戻しにかかった人物にぶつかって。


その姿を確認するより早くキツク強く抱きしめられた。


その瞬間に、いや、引き戻された時点でその人物は理解している。




「芹ちゃーん」




語尾にハートマークが何個だろう?


そんな響きで呼ばれた自分の名前。


見上げれば絡むグリーンアイに一瞬頬笑みすぐに眉根を寄せた。


その反応に「あれ?」と疑問を響かせた茜さんを振りほどくと、更に疑問の眼差しを向ける姿。




「なんか芹ちゃん怒ってる?」


「少し・・・・」


「もしかして・・・・」




ニヤリと微笑む彼が私の髪をさらりと指先で払ってそれを露見する。


張られたバンソーコの上から指先で触れ、コレが原因だろう?と確信を持って私を見つめた。


そんな彼は今日は品のいいスーツに身を包み、昨日の可愛さなど皆無で大人の雰囲気を醸し出す。


途中、その横を通る従業員が頭を下げて去っていく。


そう、彼は下げられる立場の人間なのだ。


いうなれば・・・・この会社は後々の彼の城。



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