THE FOOL
雛華さんと言えば、行きに私が必死でスルーした場所の入口でその横にしっかりと表記された料金表を眺めていて。
私の気配がすぐ近くにくると特に表情も動かさずに私を見つめてそれを指さす。
「・・・・ここなら泊まれるけど」
「はい、なんか言われると思ってましたけど却下です」
ああ、願わくば、私の顔が赤くありませんように。
そんな事を密かに願いつつ、いたって真面目な顔でNO!と告げれば、首を傾げて理由が分からないと示してくる雛華さん。
サングラスのせいでその眼の動きは分からないけれど。
「・・・・嫌?」
「はい」
「ダメ?」
「はい」
「どうしても?」
「だから何でそんなにここにこだわるんですか!?」
さっきは私があんなに他のホテルを促しても首を縦に振らなかったくせに。
だいたい何をどこまで理解してこの場所を示しているかも本気で分からない人だから困る。
さすがに相手が雛華さんだからと言っても、やはり男の人にこういった場所に誘われるのは抵抗があって。
まるで自分に害をなすものだというように目を細めてそちらを睨めば、すぐに雛華さんの声で視線を戻される。
「いや、ただね、」
「はい」
「ほら、電気は確保出来るけど・・・水道とかさ」
「・・・・」
「お風呂は我慢してもトイレとか難しいかな?って思っての提案だったんだけど」
と、遠慮がちに口にしてくる雛華さんに何だか過剰反応し感情的な返事を返していた自分に一気に羞恥。
正論であり、納得です。
確かにその問題は電気より大きい!!
そして言ってしまえばお風呂も重要です!
だって私昨日誘拐されて眠っていたという事はすでに一日入ってないんです。
だから今日くらいは確かに入りたい。
そんな大きな2択をぶつけられ、どちらかを選べと言われたら不本意でも誘惑的なのは設備有望な目の前の敵。
でも・・・、ありか?
ありなんだろうか?
真剣に考えた私の眉間はかなり寄っていたらしい。
その顔を覗き込むように体をかがめてから申し訳なさそうにその声を響かせた雛華さん。