THE FOOL
「・・・なんか、ごめんね。嫌なら懐中電灯買って帰ろう」
そう言うと私の手を引きコンビニに戻ろうとする姿を、逆に引き戻し振り返った姿を挑むように見つめ上げた。
いや、挑む必要はないのだけど。
サングラスって邪魔だ。
本当に表情が読めない。
それでも響く声音で簡単な感情くらいは読みとれる。
「芹ちゃん?」
これは困惑の声。
そう気がつき、自分の動揺している感情を落ち着かせるようにゆっくりと息をつくと、一瞬だけホテルに視線を走らせすぐに雛華さんのサングラスの奥にあるであろうグリーンアイを見つめた。
「・・・・用途は一緒ですから」
「・・・・・えっ?」
「他のホテルと一緒。一晩安眠出来る空間をここに求めるだけなんで」
「うん?・・・えっ?うん、そうだよ?」
私の言葉に酷く困惑した感じの雛華さんに、どんどん追い込まれて羞恥に染まる。
ああ、やっぱり、
雛華さんがサングラスをしていて良かった。
多分、私の顔は尋常じゃないくらいに赤いかもしれない。
そんな事を熱い頬に触れながら感じ、決まったのだからこの場所から早く中に入ろうと手を引いた。
男女2人がホテルの前で立っていればもれなくそう言う目で見られるのが本気で嫌だ。
まぁ、見てる人などいないだろう人気の無さだったけれど入ったそこはそれなりに人に埋められているらしい。
あいている部屋の少なさで選択肢も少なく一番ノーマルな部屋を選んで進む。
と、いうか選ぶ段階の写真も見るに耐えなくて、あまりまともに見ずに一番マシな部屋を選んだだけ。
そうしてくぐった部屋は、、
よかった・・・・ムードありにピンクなライトで彩られてるだけで。
そんな事を思い入り口横のスイッチを無言で切り替え普通の照明で部屋を照らした。
「ふーん、ライト切り替えれば普通だね」
「まぁ、ホテルですから」
そう簡単に切り返して奥に進むとソファーに座って息を吐く。
ここはホテル。
ここは普通のホテル。
別にそういう為に入ったんじゃない。
必死の自己暗示を脳内に響かせ閉じていた目蓋をゆっくり開ければ、物珍しそうに部屋を物色する雛華さんの姿。
ああ、頼むから・・・・変な探求心が働きませんように。