THE FOOL
思わず勢い任せに振り返れば首が痛い。
それでももしやと確認したそのホテル仕様の風呂場に、捉えた瞬間予感的中と泣きたくなる。
そうですよね。
この手のホテルは大抵クリアなガラス張りですよね。
「・・・芹ちゃん?どうしたの?」
「いえ、・・・・あの、お風呂・・・入りたいんですけど」
「うん?うん・・・先にどうぞ?」
「はい・・ありがとうございます。・・・・・で、お願いなんですが・・・」
「うん?」
「わ、私が入っている間は、このラインからから向こうは入らないようにしていただけたら嬉しいかと・・・」
そうして暗に風呂場に近づくなと伝えれば、きょとんとした表情のまま私を見つめ頷く雛華さんの姿。
いえ、違うんです。
決して覗くとか疑っているわけでなくて私の気持ちの問題と言うか、・・・・心が狭いんです余裕が無いんです。
「何か、よくわからないけどそっちに行かなければいいんだよね?」
「はい、すみません」
「うん、了解。俺こっちで本読んでるからゆっくりどうぞ~」
そう言って満面の笑みを返しさっき買ったであろう小ぶりの小説の様なものをポケットから取り出し読み始める雛華さん。
ああ、やっぱり私は汚れているかもしれない。
雛華さん、変に牽制かけてすみません。
そんな罪悪感に満ちながらバスタオルと安っぽいバスローブを手に風呂場に入ると扉を閉めた。
パタリと音が響けば、独特な浴室の匂いが鼻につく。
そうして見渡せば確実に1人で入るには広すぎるそのスペースに変な意識が走ってしまう。
もう嫌だここ・・・。
どうしても先入観が働いて意識してしまう心臓がさっきから休むことなくフル可動だ。
いや、いつだって休んでいるわけで無いけれど。
だけど、いつまでもそうしてはいられないと意を決し、ようやく来ていた服をするすると脱いで下着に手をかける。
一瞬、背中に回った手が不動になり、でもすぐにあの安心感を思い出すように目を閉じてからそれを外した。
なんだろうこの絶妙な距離感。
僅か数メートル離れた同じ空間で薄い壁一つで裸になっている自分。
それも、恋人ではない人の傍で。