THE FOOL
でも、よく考えればコレがあの家であっても一緒なんだ。
結局は同じ様な狭い範囲で同じ様な時間を過ごす事になる。
なまじここがラブホテルなものだから意識して余計な感情に占められるだけであって。
さっきから似たような事を散々頭に浮かべているのになかなか収拾のつかない自分の感情。
ああ、面倒だとコックを捻ってシャワーを出すと、余計な感情を流すように頭からかぶってきつく目を閉じた。
もう、余計な感情も苦い記憶も・・・・全部流れて忘れて今目の前の癒やしだけが残ればいいのに。
耳に響くシャワーの音に集中して、しばらく自分の肌にお湯を流す。
ずっと閉じていた目をゆっくり開ければ目が眩んでふらりとする感覚になんとかバランスを取り、そして目の前の大きな鏡に映る自分。
無防備な体を明確に映しだすそれをじっと見つめて、不意に一点に視線が走り思わず指先で触れてすぐに押さえた。
「っ・・・・消えればいい・・・・」
首筋に残る確かに甘かった筈の記憶の残骸。
今となっては火傷の後の様に今にもひりひりと痛みそうで、忘れたいのに忘れさせてくれない焼印みたいだと感じてしまう。
茜さんの所有印。
でも、私が望んだような所有ではなかったんですね。
本気で・・・・大好きだったのに。
同じ様に想われていると思っていたのに。
「馬鹿だなぁ私・・・・どこかで小さく・・・考えていた事なのに・・・・」
本気で・・・・こんな人が私を好きなんだろうか?
その答えが・・・、出ただけなのに。
強く押さえていた部分をそっと外す。
こんな事をしても鬱血しているそれは消える筈ないと現実的に判断をし、余計な意識を取りこまないように無心を決め込んでシャンプーに手を伸ばす。
髪を洗って、体を洗って、流れる泡を見つめて。
本当の誘拐ならこんな贅沢な境遇はないだろうと小さく働いた意識で笑ってしまった。
ある意味解放だったのかもなぁ。
面白味の無い繰り返しの現実からの解放。
全て失ったと思っていたけれど、逆を言えば私は今何をするのも自由なんだ。
そうして今始めたのは探求する事。