THE FOOL
私の目の前にふらりと現れたその対象はそれを働かせるには充分の存在で。
傍にいればいるほどその不思議さが増して、妙な魅力に惹かれてしまう。
そうして彼の手を取ってしまえば、私が手にしたのは自然な自分だった。
キュッと音を立ててコックを閉めると髪の毛を絞って水気を飛ばす。
そうして中に持ち込んでいたバスタオルで体や髪に付着しているそれらを取り除いて、下着を身につけるとバスローブをまとってしっかりと紐を縛る。
何事もなく過ぎ去った入浴タイムに安堵して、ゆっくり浴室の扉に手をかけると押しあけた。
瞬時に耳に入りこんだのは雛華さんの声。
・・・ではなく、卑猥と言えそうな音声の響き。
何故?!と驚く事もないその音はさっき牽制した筈のTVから流れていて。
音声が響くというのだからその画面は当然熱烈に愛し合う男女の姿だったり。
つ・・・つけちゃったんですね。
決してお風呂でのぼせたとかでなく、よろめきながら部屋を歩き始めればTVを真剣な真顔で見つめていた雛華さんが私に気がつくと満面の笑みで手を振ってきた。
子供の笑顔だ。
なのに対面してる番組は全然子供のそれじゃない。
「芹ちゃん、終わった~?」
「はぁ、まぁ・・・お先です」
「そっか、なら今度俺入るね」
そう言って座っていたベッドから勢いよく立ちあがった雛華さんがTVをそのままに私のいる方に歩きだすのを、何故かドキリと緊張してしまった。
口の端を上げ、今にも鼻歌でも響かせそうな上機嫌に見える雛華さんがあっという間に距離を縮め、私とほぼ距離がなくなった位置で意図的ににっこり笑いそのまま横を通り抜けて奥に進んだ。
後ろでパタリと扉が閉まる音がして、それに反応して振り返るとその姿はもう浴室に消えている。
残された部屋にTVに映っている女の喘ぎ声が響くのが今の動悸を高めてしまって、すたすたとベッドに向かうとそこにあったリモコンで画面を暗くした。
シンと静まった部屋に平和を感じて息を吐くと、なんだか脱力してベッドに倒れ込んだ。
そうして天井を見上げればライトの光を眩しく感じる。
それと同時に気づく違和感。