THE FOOL
そうしてすぐにどさりとその身を私の隣に当然の様におくと、ベッドのきしみが収まるより早くわたしの肩に頭を預けて寄りかかる体。
濡れた髪からの水滴が鎖骨辺りに落ちて胸元に滑り落ちるのにゾクリとした。
何か声を発しようと口を動かせばそのタイミングで当たり前の様に指先に絡んできた手の感触に完全なる硬直。
これは・・・・何?
ラブホテルで、お互いに入浴後で、ベッドの上でその距離もほぼなく絶妙に寄り添い見つめる画面はAVって・・・。
えっ?
これも意識したら自意識過剰?
心臓があり得ないほど速くて、目の前の映像も見ているのに記憶に残らない。
今意識が働くのはこの状況で雛華さんが何をどう思ってこうしているかで。
言い様のない緊張感で気がつけば微かに指先が震える、でも決して恐怖とかではない。
身動きも出来ずされるがまま、まるで家具の様に固まっていれば不意に小さく響いた息を吐く音。
それに敏感に反応すればすぐに入りこんだ雛華さんの声。
「・・・・ごめんね芹ちゃん」
「・・・は、はい?」
「うん・・・いや、可哀想なくらい緊張してるなって」
【緊張】という言葉を使ってきた段階で雛華さんが全くの無知でここにいるのではないと理解し、その瞬間に羞恥心が緊張よりも上回る。
「・・っ・・・や、やっぱり、し、知って・・・」
「まぁ、知識的には知ってたよ。こんな行為も・・・」
そう言ってスッとTVを指さす雛華さんの指先。
こんな行為と言われるそれはもう口に出せないほど激しくなっていて、それを示した指先が今度はスッと下を向くと、
「このホテルの意味も」
「・・・・で・・すよね。・・・すみません。変に意識してさっき・・・」
「うーん、でもそこなんだよ」
「・・・・はっ?」
おずおずと自分の自意識過剰を謝罪すれば、帰ってきたのは予想していなかった雛華さんの濁った返事。
しかも言いたい事がさっぱり掴めないそれにようやく自分の視線を雛華さんに下ろした。
そしてすぐにそれに合わせるように私を上目遣いで見上げたグリーンアイと視線が絡む。
あ・・・・妖艶。