THE FOOL
目を見たら、あのグリーンアイを見たら逃げられない気がして。
あのグリーンアイを見たら今はまだ違う姿を思い出しそうだったから。
だけどそれよりも先に、
「・・・・雛・・華さん」
「芹ちゃん・・・」
確認するように視線は外したまま疑問を孕んだ声で名前を呼べば、返される自分の名前の響き。
その声音がどんな意味の響きかは知らないけれどどこか誘導するそれに聞こえてドキリとした。
自分の足の間に雛華さんの足があって、覆いかぶさるように見降ろす雛華さんの両手が私の頭の横にある。
だけどスッと動いた片手が私の顎にそっと触れ、指の腹でそのラインを確認するように滑ると自然に絡んで不動になった。
「芹ちゃん・・・・見て」
少し力の入った言い方は僅かに強制的な響きがある。
完全に男の人の空気を纏う雛華さんに緊張が強まり体に力が入ってしまう。
おかしい。
本当に雛華さんはこんな行為を知らないのだろうか?
まるで経験豊富な様に相手を誘導する仕草や声音は見事色気を孕んで、ちょっとした隙を見せれば一気に攻め込まれそうで身動きが取れない。
速まる動悸で体が熱くて、その熱が喉元まで来てしまった今声を発するのも苦しいくらい。
今、誘導されたようにその目を見ようものなら・・・・。
きっと、呑まれる。
「芹ちゃん・・・・ね、・・俺を見てよ・・・」
再度の要求の声に心臓が痛いくらいに跳ねた直後、理性がすばやく首を横に振った。
雛華さんにどう思われても、今その目を見る勇気が私にはない。
コレが自分の思っているような行為や時間かは知らない。
それでも、今見たら負ける気がする。
雛華さんにも・・・自分にも。
私の反応に沈黙が続き、速くなる鼓動が聞こえてしまうんじゃないかと懸念してしまう時間。
不動な雛華さんの真意は何かと疑問にも思うのに自分からは動き出せず、きっと赤いであろう顔をなんとかして隠せないかと必死で思考する。
だけど未だ顎に絡んでいる雛華さんの指先。
沈黙が痛い・・・。
何か・・・言って。
「・・・芹ちゃん・・」
響いたのは変わらず私の名前。
だけど今度は動作こみのそれが、私の顎を斜めに持ち上げるとはっきり露わになった首筋に唇が触れた。