THE FOOL
なんだろう。
肉食動物に食いつかれた様な衝撃を感じた。
あまりに大人しく害なさそうにそこにいたから安心しきって傍で見つめていて。
もっと近づいても大丈夫だろう。
もっともう少しと興味をだして、近づいた時に簡単に捕われ食いつかれる距離になっていた。
そんな感覚。
相変わらず耳障りなTVの音声が響く聴覚。
だけどそんな事すらどうでもよくなる触覚の働き。
触れた唇がそれだけじゃ足らないと啄むように密度を増して、顎にあった指先が流れるように首の裏に回って引き寄せる。
頬を掠める湿った髪の感触にゾクリとし、次の瞬間にその唇が私の頬に移って熱を落とす。
「・・っ・・・ひな・・」
「芹ちゃん・・・」
血が逆流しそう。
頬を唇で遊ぶように食みながら耳元に寄った唇が私の名前を吐息と一緒に吹き込んで。
その瞬間に目が回りそうな程の熱と動悸できつく目蓋を閉じてしまった。
それに気がついているのかいないのか、耳朶を食んでから軽く舌先で耳枠をなぞる行為に身をすくめてしまう。
それが合図。
そんな感じにベッドが軋むと今までは密着の無かった下半身に雛華さんの重みが程良く圧をかけて乗ってくる。
「芹ちゃん・・・・何で・・目、閉じてるの?」
その・・・誘うような声・・・狡い。
甘えた子供が『どうして?』と首を傾げて聞くような響きに、更に目を閉じて小さく首を横に振ると。
「・・・・・探求心・・・働かせちゃうよ?」
ゾッとする言葉。
恐怖なのか緊張なのか。
この状況で彼が働かせる探求心とは何だろう?
そして一番怖いのは、探求心を働かせた彼の行動は人の予想を簡単に超えるんだ。
悪戯な響きも混じった宣言に思わずその目蓋を開けた。
それでも合わせられない視線は外す位置で見開いて、その瞬間に容赦なく探求心を実行に移す雛華さん。
頬から首筋に這う唇の熱と動きに困惑する。
唇が這った頬の後を追うように滑る指先もどう考えても扇情的な行為だ。
それを決定づける様な直後の行動。
頬から首筋に移っていた指先が首元のバスローブにその動きを止め、一瞬の不動の後に肌に沿って私の肩に向かい纏っていたそれを緩めていく。