忘れられない君との夏。
「洸ー、ここ分かんない、教えて」
声に、前に座っている洸がゆっくりと振り返る。
「ん?どれ」
補習を始めてから3時間が経過した。
今日、分かったことがある。
洸は教えるのが上手い。
確か小学校のときも竹馬の乗り方をみんなに教えてくれて、洸が巻き起こしたブームにより校庭が竹馬で埋め尽くされて先生の間で問題となったことがあった。
…あったよね?
「だから、ここはxでくくって…」
「あっそっか!スッキリ!」
数学は嫌いだけど、解けていくときの、心の靄が晴れる感じは好きだ。
視線を感じて、顔を上げる。
「どうかした?」
「いや、葵は飲み込みいいなって思って」
「そう、かな?」
「うん、問題が解けないときの苛立ちは半端じゃないけど吸収力はすごいよ」
「…一言余計なんですけど」
はは、とまた洸は楽しそうに笑う。
「洸の笑顔はいいね、人を幸せにする」
思わず口からでた言葉に、洸は目を見開いた。
「…葵は恥ずかしいことばっかするな」
「え、それ褒めてないよね?」
「どーだろうね」
洸はそれだけ言って前を向いてしまった。
…なんでもないフリをする洸の耳が真っ赤になっていて、少しだけかわいいなと思った。