忘れられない君との夏。


「葵の声だから、聞こえたのかも」


「…え?」


一瞬、意味が飲み込めなくて、返事が遅れる。


葵の声だから、聞こえた…


頭の中で反芻して、考える。


それって、どういうことだろう。


私の声が、特別ってこと?


「…洸」


横をみると、洸はいつも通りの笑顔を浮かべていて、なぜか私はホッとした。


「私もわかるかも、洸の声」


「ん?」


「ペリカンみたいだから、すぐわかる」


「…ごめん、ちょっと時間もらっていい?」


真剣な顔で答える洸に、私は笑いそうになるのをこらえる。


悩め少年。


「仕返しだバーカ」


さっき、びっくりさせられた、少しだけ、ドキッとしてしまったことへの。


私のつぶやきは開いた窓から出て青空に吸い込まれた。

< 20 / 88 >

この作品をシェア

pagetop