忘れられない君との夏。
「葵の声だから、聞こえたのかも」
「…え?」
一瞬、意味が飲み込めなくて、返事が遅れる。
葵の声だから、聞こえた…
頭の中で反芻して、考える。
それって、どういうことだろう。
私の声が、特別ってこと?
「…洸」
横をみると、洸はいつも通りの笑顔を浮かべていて、なぜか私はホッとした。
「私もわかるかも、洸の声」
「ん?」
「ペリカンみたいだから、すぐわかる」
「…ごめん、ちょっと時間もらっていい?」
真剣な顔で答える洸に、私は笑いそうになるのをこらえる。
悩め少年。
「仕返しだバーカ」
さっき、びっくりさせられた、少しだけ、ドキッとしてしまったことへの。
私のつぶやきは開いた窓から出て青空に吸い込まれた。