忘れられない君との夏。
「秋谷先生なんのアイス奢ってくれるのかな〜」
「俺あれがいい、チョコザックザクの」
「洸は先生のケチさを甘く見てない?私は一個100円のパキッて二つにできるやつだと思う」
「あーソーダ味のね」
「もう一本いくよ!」、と亜美の大きな声がグラウンドから聞こえる。
「私あれ好きだな、中がバニラで、周りソーダのやつ」
「ああ、葵昔からあれ好きだよな」
「うん、周りのソーダだけ先に食べて最後にバニラ食べるの。あのバニラが今まで食べた中で最高にうまい」
「それ俺もやったことあるわ」
「え、洸でもそんなことするんだ。じゃああれは?スイカの種プッて飛ばして、誰が1番飛ぶかってやつは?」
「あるよ。ていうか中学の時やったよな?みんなで」
「ああ、畑の見学とかいう名前だけの総合の時間の?」
「そうそう」
なんでもない会話が、2人の間を流れる。
たくさんの小さな思い出が、体から、溢れ出す。
目の前で喋りながらホチキスを動かす洸をそっと見つめる。
この12年間、洸の近くにいた感覚はあまりなかったけど、私たちは知らない間にこんなにも同じ時間を過ごしていたんだ。
こんな風に高3の夏に洸と2人で話す時が来るなんて、今まで思ってもみなかった。
「人生何が起きるかわかんないね」
「なんだよ急に」
そう言って洸はいつものように笑った。