忘れられない君との夏。


「…先輩、それでうっかり好きになんてことは」


「ないよ!ないない!」


その瞬間、ものすごい形相だった高野さんの顔が、安堵で緩んだ。


「よかった…」


少し微笑みを浮かべたその頬は、うっすらと紅く染まっている気がして、


恋、してるんだなって、そう思った。


「…高野さんは、好きって言わないの?洸に」


思わず口から出てしまった言葉に、自分でもハッとする。


「なっ…!」


驚きと恥ずかしさで、彼女の顔はもう火が出るほど真っ赤だ。


「それはっ…言いたい、ですけど、自信ないです…」


私はその言葉に少し驚く。これだけかわいいのに、自信がないなんて。


「洸先輩、告白は全部断るし、一度も付き合ったことないんですよ」


横にいたバレー部の子が、そう言って、私はさらに驚く。


「そうなんだ…あんなにモテるのに」


「…先輩、知らなかったんですか?」


非難の目を向けられ、私は慌てて「いや〜あんまりそういう色恋沙汰は…」と答えてごまかす。


「それに、洸先輩は、みんなのものなんです!」


きた、洸ファンのモットー。みんなのものだから、手を出したらダメ。


「あ、じゃあ私そろそろ行くね〜」


そう言って私はそそくさとその場から逃げる。


「洸先輩は、誰とも付き合いませんからね!」


まだ言ってるよ…


「先輩は知ってると思いますけど、洸先輩はっ…!」


最後に聞こえた言葉に、私は足を止める。


「…え?」


心臓が、痛い。体からスッと体温が無くなる。


『嫌いじゃないよ』


洸の優しい、それでいてどこか寂しそうな昨日の笑顔が頭によぎった。

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