忘れられない君との夏。


「このデカイプールを2人でってのはキツイなあ」


「今日はアイス私たちの好きなの奢ってもらお!あの給料泥棒教師ゆるすまじ!!」


放課後、やはり秋谷先生は私たちに頼みごとをしてきた。


今日はプールの掃除だ。ありえない。


「ま、ちゃっちゃかやるか」


そう言って洸はホースとブラシを持ってプールの中に下りる。


「あ!まって私もー!」


色々悩んだってしょうがない。洸には洸の決めたことがあって、それに私が口出しできる権利なんて、ないんだから。


「うおーつめてー」


「洸、東京のこと聞いてもいい?」


洸は、私の目をじっと覗き込む。


そして、すぐに優しく笑った。


「葵が聞きたいなら、いいよ」


「洸はさ、いつから東京に行きたいって思ったの?」


「うーん、具体的にいつって言うのはないけど、高1くらいからぼんやりとは思ってたかな」


ワシャワシャ、とブラシがプールの底をこする。


「やりたいこと、あるんだ」


「うん」


迷いのない、頷き。


私の知らない間に、洸は色々と考えて決めてたんだ。


「…すごいなあ…洸は」


「俺は、葵の方がすごいと思うよ。」


私はびっくりして洸の方をちらりとみる。


洸は、真面目な顔をしていた。


「真っ直ぐで、いつも自分を持ってる。葵は昔っからそうだよ。俺は、ずっと、かっけえなって思ってた」


「そう…なの?」


意外な洸の告白に、私は少し照れくさくなる。


洸がそんな風に思ってたなんて、知らなかった。


「葵は?俺のことどんな風に思ってる?」


イタズラっぽく洸が笑う。


「えー!んー…洸はぁ」


私は目だけで上を見る。雲ひとつない、青空。


「頭良くて、運動もできて、モテて、人望もあって…そんな自分をどこかで分かってて、型にはめようと生きてるって思ってた。」


「…ん?あれ、褒められてないよな?」

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