忘れられない君との夏。
少し時間を置いてから教室に向かおうとしたそのとき、洸がこちらを振り向いた。
突然のことに、体が動かず、なんともマヌケなポーズで私は固まる。
「あっえっと…」
「葵…」
洸の非難の眼差しに、私は引きつる頬をなんと持ち上げる。
「ごめん、悪気はなかったの、本当に」
私は洸のいるところまで走る。
洸は、私が隣まで来るのを確認してから、歩き始めた。
「みんなの洸先輩だとしてもやっぱり告白する人はいるのか…」
高野さんたちに干されないかが心配だ。
「ちゃかすな」
頭に拳がこん、と置かれる。
昨日の後輩ちゃんも言ってたけど、確かにここまでモテる洸が彼女の1人もいたことがないのはおかしい。
「…洸ってもしかしてゲ」
「なんか言った?」
ぐりぐりと頭皮が刺激される。
「痛い痛い!冗談!」
私は降参を示して洸の手から逃れる。
「…洸はさ、東京に行くの決めたから彼女作らないの?」
「…さあ、どうだろうな」
「あーはぐらかした!」
洸は笑うだけで、それ以上は何も言わなかった。