忘れられない君との夏。


デートなんかじゃ、ない。


たしかに2人っきりだけど、でもそんなんじゃない…よね?


『かわいい浴衣着てこいよ』


洸の笑顔が、頭に浮かぶ。


心臓が跳ねて、体も跳ねそうになる。


そんなんじゃない、そんなんじゃない。


私は自分に言い聞かせながら自転車を留め、校門をくぐる。


靴を履き替えて、階段を上がり、教室に向かう。


「…おはよー」


「おはよ」


教室のドアを開けると、すでに来ていた洸が、平和そうな笑顔で普通に挨拶を返してくる。


からかわれているのは、私だけ?


それとも、洸が動じてないだけ?


「楽しみだな、祭り」


ほら、そうやって素直に言われると、なんだかこちらが恥ずかしい。


「…うん」


私、子どもだなあ…


席について筆箱を出していたその時、廊下からパタパタと数人の足音が聞こえて来た。


足音が止まったと思ったら、いきなり教室のドアが開いた。


私は驚いてそちらに目を向ける。


「あ…」


高野さんと、このまえよりも増えた取り巻きの方々。


目があって、思い切り睨まれる。


…なんかしたっけ

< 43 / 88 >

この作品をシェア

pagetop