忘れられない君との夏。


私が曖昧に微笑むと、高野さんは私から目を逸らし、洸の前まで歩く。


「先輩、私たちと一緒にお祭りに行ってください」


高野さんの手は、震えていた。


ドアの辺りに固まっている後輩たちも、真剣な眼差しで2人を見つめている。


…みんな、洸のことが大好きなんだ。


私だけじゃなくて、みんな知っている。


洸がモテるのはイケメンとか頭がいいとかそれだけじゃない。


みんなきっと、洸に助けられたことがあるからだ。


優しくて、おせっかいで、困ってる子を放っておけない、そんな洸の人柄なんだって、みんな知ってる。


「…ごめん、葵と行く約束してんだ」


「…夏目先輩」


まっすぐな高野さんの目に見つめられ、胸が苦しくなる。


「洸先輩、私たちに譲ってください」


みんな知っている。これが洸にとって最後のお祭りになるかもしれないって。

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