忘れられない君との夏。


「…葵がそれでいいなら」


なぜだか、胸がえぐり取られた。


「じゃあ、5時半に校門前で」


高野さんは少し不満そうな顔をしたが、そう言って教室を出た。


私は緊張して上がっていた肩が緩む。


洸はそっぽを向いたままだ。


「えと、あの、洸」


私はそっと洸の前まで行く。


「ごめんね、勝手に」


「…お人好し」


「いたっ」


俯いた私のおでこに容赦ないでこぴんがとんできた。


「洸に言われたくない!」


席に着いた洸の背中を見つめながら、私は拳を握りしめる。


「…それに、みんな洸のこと大好きなんだよ、本当に」


洸は、何も言わなかった。


これで、よかったんだよね?

< 46 / 88 >

この作品をシェア

pagetop