忘れられない君との夏。
「あら、なんか浮かない顔じゃない」
「そんなことないよ!」
私に浴衣を着せながらそう言うお母さんに、私は慌てて否定する。
楽しみ、だもん。
「だったらもっとニコニコしなさいっ!」
「ちょ!苦しい〜」
慣れないお腹の圧迫感に私は顔を歪める。
「あと、その髪どうにかしなさい!」
「えー…」
少しだけ癖っ毛の黒髪は、肩の上で踊っている。
私は適当にそこら辺にある黒ゴムでお団子を作る。
どうせいつも洸の前でボサボサの髪でいるんだから、今更だよね。
高野さんの綺麗に整えられたストレートの長い髪を思い出して、不思議と心がへこむ。
「ちょっと、髪飾りとかないの?」
「そんなんないよ〜」
「しょうがないわねえ」
お母さんは一度部屋から出て行くと、しばらくして手に花の髪留めを持って来た。
それを私のお団子の下あたりに留めてくれる。
「はい、これでちょっとはマシになったでしょ」
「ありがと。じゃあ行ってくるね」
私は下駄をつっかけて家を出る。