忘れられない君との夏。
「あれ、葵じゃん」
振り向くと、イカ焼きをくわえた亜美と、ソフト部の子が数人いた。
「部活帰り?お疲れ様」
「うん、葵は洸と?」
なんでそんな当たり前みたいな顔を。
「うーん、洸と、洸のファンの後輩たちかな」
「なんだそれ」
「あ、それならさっき向こうの方にいたよ」
私は指を指された方に目を向ける。
行く気にはなれなかった。
「…行かないの?」
「私、いなくてもいいかなって」
私は曖昧に笑う。
「…洸に言ったら?2人で回りたいって」
「…でも、みんな洸とまわりたいと思うし」
「葵は?」
亜美の真剣な声に、私は笑うのをやめる。
「…分かんないよ」
ずっと、わからない。自分の気持ちが、分からない。
「また逃げるの?そうやって、洸が東京に行くまで逃げ続けるの?」
分からない、分かんないよ。
だって、洸は優しいから。
なんでも、くれちゃうから。しょうがないなって笑って。
だから、言えない。
「わがままなんて、言えないよ…」
「葵、わがままじゃないでしょ」
亜美は、私の肩を掴む。
私はびっくりして、顔を上げる。
「それは、葵の想いでしょ。言わなきゃ、誰も分かんないよ。洸にも、葵にだって分かんない。言わなきゃ、わがままにすらできないよ?」
わがままにすら、できない。
言わなきゃ、私も分からない。
「…私、行く。ありがとう、亜美」
「遅いわバーカ」
ソフト部の子たちにも手を振って、私は洸のいるところへ向かう。