忘れられない君との夏。
「葵…」
洸が、私の名前を呼ぶ。
当たり前のことなのに、特別なことみたいに意識してしまう。
その時突然、空が光った。
2人で同じ方向を見上げる。
次の瞬間、お腹にドォォォンと低い音が響く。
「…花火だ」
そうだ、毎年お祭りの最後に上がる花火。
「洸、あっち!」
公園の奥を私は指差す。
前が開けていて、海が見える。
私は少し痛む足でその場所まで行く。
「わあ…」
色とりどりの華が、空に咲いては落ちてゆく。
「ここからこんな風に見えるんだな」
「ね、18年間もここで生きてきて気づかなかった」
2人で見るのも、最初で最後…
ふと思って、考えるのをやめる。
でも洸は最後かもしれないのに、思えば振り回してしまった。
「…洸、ごめんね。勝手なことたくさん言って」
「ん?いいよ、今楽しいから。それに、葵らしい」
洸はいつもみたいに笑ってから、花火をじっと見つめる。
その横顔を見ていたら、なんだか、胸がいっぱいになって、
「…洸、東京行かないで」
気づいたら、言っていた。