忘れられない君との夏。
「…それで、好きって言えなかったと」
「…うん」
亜美の部活が終わるのを待って、私たちは海に来た。
なんとなく砂浜に、並んで座る。
「洸とはその後どうした?」
「いつもみたいに話して、いつものところでバイバイした」
洸はわたしの手を繋がなかったし、「東京に行かないで」と言ったわたしの真意も聞かなかった。
本当に、何にもなかったことになった。
「いいじゃん、東京行かないって洸が言うならそれで」
「だめだよ!だって、ずっと、夢だったんだよ?高1からずっと、思って来たんだよ?」
「でも、好きなんでしょ?」
「それは、そうだけど…」
でも、洸が東京に行くのを、私は祝福してあげられない。
「好きな人の夢を応援してあげられないなんて、そんなのダメだよ…」
「そんなの、誰が決めたの?」
亜美はそういうと立ち上がって海に向かって歩く。
私も慌ててその後を追う。
「いいじゃん、応援しないで」
靴と靴下を脱ぎ捨てて、亜美は水に足を絡める。
「…東京に行ったら、洸が洸じゃなくなっちゃう」
瞼の裏に、お兄ちゃんの背中が蘇る。
笑顔で手を振って出て行った、お兄ちゃんの姿。